19××年。
植えたばかりの桜達を見ていた。丘へと続く坂を上りきった場所だ。少々辿りつくまでに歩くせいか、ここが知れ渡っていないせいか、花が満開になれど人はほとんど来ない。帽子が風に飛ばされないよう、押さえつけた。
天気が良い、桜も自分もはっきり影を作っている。もうひとつ影があるなと気づいた。
明るい黄緑の着物に羽織の、噺家みたいな格好した男がいた。学校の生徒とそう変わらない歳だろう。「こんにちは」という声が妙に聞き取りやすい。こちらを珍しそうに見回し、どこの誰かとか花は好きかとか早口に喋り倒すと、桜を嬉しそうに眺めていた。
地域おこし活動の一環で、自分が植えようと言い出したと話すと更に嬉しそうだった。
朝だろうが昼だろうが夜だろうが、来るたびにそいつは桜の下にいた。花見をしてたり、おはじきを弾いてたり、その日によって違う事をしていたものの、顔を合わせると、それを中断して自分と話すのは同じだった。
話してくれるには、ここに興味があったので、周りが止めるのも無視して頑張り飛び出したそうだ。どうりで浮世離れしたところがある。愉快そうに話す姿に危機感や罪悪感は感じられない。
何度も逢った時、ようやく言った。
「人の事言えないけど、ちょっとは帰ってやらなきゃ心配されるんじゃない?」
「いいんだよ、帰ったら偉い奴や近所のちびっこに怒られるし。そっちが心配する事じゃないって。いいから今日も喋ろう」
「軽く言うなぁ。そんなに俺と喋りたいほど人恋しいのか」
「…人じゃなくて桜」
『俺もお前がいた所行ってみたい!』
それから何度か、こちらとあちらを行き来して楽しんでいたが。
どうしてこっちで倒れるんだよ。
「とにかくむこうに放り出せば、誰か見つけてくれるかもしれなかった、かなぁ」
人間の体の仕組みなんてよくわからない。何もできなかった。慌てていたら全部終わった。
考えている事を察してくれたのか、青くなった頬は固いまま消え入りそうな声が、
『ま、仕方ない』
仕方ないか?自分と逢わなければ今頃助かっていたんじゃないか?
『急に亡くなる人間も、いるそうです。あの人以外にも、沢山』
『もう泣いててもいいから、何か食べませんか。疲れてるなら眠りましょう?』
白い着物と黒い着物がそう言った。
手元には、いびつな形の赤いおはじきが転がっている。黄緑の袖も目についた。そういや羽織はどこだろう。その辺りに放って、それからどうしたか覚えていない。そもそもどんな色だったか。灰な気もするし茶な気もするし、いっそ黄だったか。色んな色があってわからない。
『お前、接木に使ったあの桜かー。写真撮った時あったろ、あれ、学校の掲載紙に使っちゃった』
底抜けに明るい笑い声がした。これについて行こうと決めた。
19××年。
部屋の扉が開く音に顔を上げると、男が一礼して扉を閉めていた。白い着物姿で腰に守刀を差している。目の前で歩を止め、そして土地の一部を手放すなと言う。机の上にあった学校の移転に関する書類を勝手に引っ掴み、誤字を指摘され、襟元を直され、仕舞いにここまで来るのに疲れたとそっぽを向かれた。文句ばかりの外部者だ。
椅子の背に凭れたまま、机越しに相手を見る。姿勢良く立てっている。年齢は、ここの生徒と変わらないか。言われた事を思い返すと、要は桜が咲いている土地を手放さないでほしいのか。ふと、あそこに桜が植えられた年の理事長兼校長が記録に残っておらず、何故か嫌な感じがしたのを思い出した。
「そもそも」と男。「この計画は厳しいように思う。やり方にしろ費用にしろ
、切羽詰りすぎだ」苦々しげに書類を返してきた。…文句は多いが馬鹿ではないらしい。
万年筆を回しつつ一通り聞いてみた後、
「俺はこれが後の為になると思ってやってんだよ。好き勝手言いやがって、お前誰だ?」
すると、その理事長兼校長の知り合いと答えられた。本当に桜を好いてくれていたから、手放すなと。変な事を言う。桜が植わったのが何年前だと思っているんだか。
「話の通じない奴が。絶対後悔するに決まってる」
「それがわかってるなら、どうしていつまでも話しかけてきやがる」
顔色を変え、「もう、勝手にしろ」。怒鳴りながら扉に手をかけると、そのまま出て行った。
何年前だったか。新しい学校に植えられた桜、その主が巻物の紐をいじりながら言うには。
「この学校で桜が人を攫うという噂が広まってました。攫われると桜に命を絶たれて周りからは忘れられるとか、貴方のいる土地を手放したせいで桜に恨まれたとか色々言いたい放題です。いや、一部は正解ですけど」
桜を植えたり建物を建てたり、自分勝手だ。そう言うと違う桜が、和鏡を帯の間に入れ笑いかける。
「実際は土地の話を知った生徒の作り話じゃないのかな」
でも、何故今更その話が。当時も評判が悪かったのに。悪評が悪評を呼ぶ、という言葉が浮かんだ。
あの人間には再会していない。どうしているのやら。
閉じると決めた道を、自力で再び開けるとは思わなかった。ついでに言えば、あの人間があの土地に来るとも思わなかった。
『お前が恨んでるのかと思ったのに、なんだ、作り話か。畜生』
それから何日か一緒にいて、強引なやり方で成功もしたが恨みも買ったのだとわかった。
逆恨みもいいところだ。誰が土地手放したせいでこっちが大変だと思ってるんだか。
『なぁ。あの日にやろうと思った事、全部やったぞ。暇になったしお前と話してやってもいい』
「よくもまぁ、あんな短い時間に逢った奴を覚えてたな」
家の真ん中に座り込む。もうすぐ全部なくなるなぁと思う。いや、ひとり違ったか。
隣にいる人間の口が、悪いか、と言う風に動いた。この期に及んで見下したような微笑だった。
これでも見下したつもりなんかないのは、他の誰が知らなかろうが自分は知っている。
とはいえ、素直に笑うのも癪なので相応の表情を向けた。
「お前に言ったんじゃない。馬鹿な事した、ほんとに」
19××年。
生徒が折った枝を、遠目から「あーあ」と思いつつ拾おうとした。
枝を、要するに地面を見ながら近付いたもので、枝の前にその男がいると気づいたのは、拾った後だった。もしかしたら、自分がしゃがんだ時あたりに出てきたのかもしれない。
感心だ、という風に「ありがとう」と言うが早いが踵を返そうとしたので、襟首掴んで止めた。
淡茶の着物、手には何故か巻物を持っている。学校図書館司書として少し親近感が湧く。
案の定、生徒から聞いた桜の噂が関係していた。どうりで、門の閉まったこの時刻に、学生で通る見た目の着物姿が見えるなんて現実離れしていると思った。
親切だと思い出てきたのが間違いだった、と桜は打ちひしがれていた。次の日、同時刻に木の下へ行く。更に次の日も同様。3日目、暇人だなぁと言いながら姿を見せてくれた。
何日かに渡り話を聞く内、噂は一時一句間違わず本当だと知った。ただ、一時期は攫った後に殺されると言われた時があったそうだ。昔は年中、あちらとそちらを行き来できた。が、連れて来た人間を殺してしまった桜がいて、以降は12年に1度、この学校の関係者、それも恋愛対象と見なした者だけ、と決まり事が作られたらしい。
桜はどんな話も、ゆったりとした調子で喋る。穏やかな表情で、仕草もゆったりしていた。驚いた顔でも見たくなり、冊子に載せるという名目で写真を撮った。それでも崩れない。
もしかして嫌われているのかと言ってみた。
「そんな事はないよ」。過去に人を攫って失敗した話を聞いてきた、だから「過ちを犯さないよう、慎重なだけ」。
カメラを向けシャッターをきる。何故かこの、人の形をした桜は写真に写らない。
「それじゃあ、私に惚れてて攫う気があるからこそ何日もただ話していたとも聞こえる」
手を降ろすと、今まで見た事のない茫然とした顔があった。
「あ、そうか」
納得したように微笑まれた。拍子抜けしながら「そうだよ」と頷くしかない。
まだ待ってくれ、そちらにとっても一大事なのだから、ぎりぎりまで考えさせてくれ、と頼まれた。
次の日、小さな桜の子達と鞠や人形で遊んだ後も、返事は「考えさせてくれ」。
そうこうしている間に、生徒は春休みに入った。もう、攫われるのも望むところとなっていた。
ただ、存在が消えるというのはやはり悲しいものがある。せめて、桜と一緒にいるという証拠を残せないものか。贅沢は言わない、全員にわかるようなものでなくてもいいから。
出来たばかりの冊子と桜の写真があると気づいた。桜が言っていた事を思い出す。この学校の関係者のみになった理由、12年に1度。頭に浮かんだ案を実行するのは簡単だった。おそらくこれ、という年の冊子と今年の冊子、そして写真があればいい。これで良し。気づかれなかったり並べ替えられたりする可能性は高いが、それも賭けのように思えた。縁がなければそれまでだ。
出入りした扉から、嫌な音がしたのはその時だった。
写真を貰っておけば良かったと思う。写らないのに残したがるなんて何を考えているのやら、などと苦笑している場合ではなかった。貰っておけば縁にする物が出来たというのに。せめてあのカメラとかいう物、あれだけでも手に入らないものか。手に入れたら、写真を撮ってあげる。
また逢えた時、待った分まで好いても許させるなら、自分は今の在り方に満足だ。
十数年前。
客は修理してほしいと言う和鏡を取り出しつつ、疲れきった顔をする。ここに来る途中、寄った場所で、追いかけっこをしたそうだ。矢が飛んできたり突風に飛ばされかけたり。
命がけで遊んだらしい。
あちら側で、高校の生徒が告白する声が聞こえた。まったく、自分の木の傍で告白すると上手くいく、なんて噂を流したのは誰だ。少し気になり言葉を伝える手伝いをした時も何度かあったが…それも様々な決まりが出来る前だ、当時在学していた者はもういない。
覚えてもいないはず。ただのよくある種類の噂なだけか。
「お疲れ様。あの子達、将来、無茶をするようにならなきゃいいけど」
「…あんまり言うと煩がられるよ」
久々に会いに行ったら木が枯れてるより、煩がられる方がずっとマシだ。最近も、注意を破った子が大変な事になった。
最初に注意を破った桜は相手が亡くなってすぐ枯れたので、今回もそうなるのではと焦ったが…
静かにゆっくり、というのも手が付けられない。どうにかならないのか。
(思いつめると死ねるんだねぇ…)
内心、生徒の声に、何もしてあげられないけど思いつめるのはやめなさいよ、と返した。
「背中に的の絵書いた紙貼られてるよ。命がけだねぇ、元気すぎる子達の相手は」
命がけ。最近は特に使いたくない言葉だ。あの図書館司書の一件以来、あの桜は段々出歩かなくなっている。ただ花に元気が無くなっているのを見ると、まだ引きずっているのだろう。
いつまで待ち続けるのだろうか。いつ逢いに来てくれても大丈夫なように、と言ったって、肝心の人間が不在では意味がない。
一緒にいても駄目な時は駄目なのだと、現に自分は昔それを見たのだと言っても『そう』と興味なさそうに頷き、一蹴された。
…あんな不運な事故が起きるとは思っていなかっただろう。
(そこまでに逢いたい人間が出来るもの?…いや出来るって知ってるけど…あの桜で…)
あの桜が忙しくしている頃、何故か相手の人間は、あの桜の写真を冊子に載せる事にしたらしい。何本もある桜の中からよく選んだなぁと思う。その人間も忙殺され余裕を無くしていた。忙殺された結果失ったものを数える間もなく、また繰り返し。
どうしてお互いを長年忘れなかったか、ほとんど心中のようだったのは何故か。聞こうにも、人間は桜が、当の桜は同日切り倒されてもういないので聞きようがない。
相手は、自分の背中に貼られた紙を剥がそうとする。その腕を掴んだ。黒い着物の袖がふわふわしていて気持ち良い。困惑した顔でどうしたのかと尋ねられる。
「今日会った子達、周りの心配はしても人間を好きになる機会を怖がりはしないんだよ」
「何も見た事ない子はそんなものじゃないの」
「そう?嘘でしょう。こんな機会今すぐなくなってほしいね、桜は桜を好きになればいい」
「そう。私は貴方が好きだけど」
黒い着物を掴んだまま硬直した。
「嘘だよ。ほら、別に桜相手だろうが怖いんじゃないか」
良い奴そうな笑顔で言って来る。脱力しながら、こいつ尚更始末に終えないと思った。
数年前。
「…そんなわけで、これを預かって来たんだ」
理由を話すと、相手は頭を抱えてから「そういう事なら、いいだろ」と家に入れてくれた。
薄暗い廊下がしばらく続く。普段使っている部屋の扉は全て素通りし、奥にある蹄鉄をぶらさげた戸に家主は手を伸ばす。
扉が開かれる時、持ち歩いているのだろう、土鈴のカランという音がした。自分はつかつか後についてゆく。足を踏み入れると、辺り一面が棚だらけだった。右も左も天井近くまで全部棚。数は数万、最低数万はあると思う。そのほとんどに引き出しがついていて、相手はぶつぶつ言いながら、とある棚の前で足を止めた。
「場所といい持ち主といい…ここにしようか。あの公園の桜が届けようとしてたんだな?」
「うん。遊びに行った時に預かった。お前のご近所さんだからなぁ。帰る途中に頼むよってさ」
さっき聞いた、と言って手を差し出してくる。預かり物をその手に乗せた。
改めて部屋を見渡す。弱い光がどこから差しているのかはわからない。薄暗い空間と古そうな棚、臭いにも年季が入っているが、何より圧迫感が先に来る。
手の中の鞠の極彩色に目をやりながら、
「木の外も中も墓地なんて、だから隣のアパートは幽霊出るとか言われるんだ」
「どう考えてもあれが建った時、お前達が勝手に部屋入って宴会したのが原因だ」
懐かしい過ちを何度も繰り返すから面倒だ。
「毎度思うよ。よくやるよなぁ、この役目」
「いやいや、本来はお前もこの役目だからな。さぼるな。慣れればいい役目だぞ」
梯子に登りながら、まぶしい目をして引き出しをひとつひとつ眺めている。
「いいか、こうして残された品の中から特に大切にされていた品を大切にしまっておく。
そして偲びたいと言われたなら記録帳から探して案内する。ここまでやったら俺達はそっとその場を去るわけだ。邪魔になるからな。確かに数は多いが、やってる内に場所等を覚えてはくるし無茶ではないだろう。掃除が大変なのは認めるが…。引き出しを開けた時に中が滅茶苦茶では、来た者も品の持ち主も悪い思いをするのだから義務だ義務。考え方を変えてみろ、これだけの数を預かるのはやりがいのある事だとは思わないか。ここに来る品が何かによって、それぞれの個性が今尚生きるという見方もできると先代も仰った。もし、この役目が存在しなかったら、忘れられてそれまでかもしれない…おい、聞いてる…か…」
いない。
面倒がっているのではなく、悲しい思いを嫌がっているとは気づいている。気づいているが。
「…次の掃除はあいつにやらせよう…」
梯子を昇る。おはじきと帽子が入った引き出し、守刀と万年筆が入った引き出し、この上にしよう。
噂に聞けば、これの持ち主が逢いたい桜も本格的に体調を崩しているようだ。そして、夢枕にもういない人間が立ち、起きたらこれが枕元にあったのだと言う桜。こちらも危ない気がする。
(こういうのを考えるのが嫌なんだろうな、あいつは…)
それにしてもこの品は、関係する桜に渡すと喜ばれるのでは?…それが無理だから、ここなのか。
(別に間違いではない。いずれ同じ場所に行くだろう)
引き出しの取っ手を引くと、預かり物のカメラを端に寄せて置いた。
数十日前。
眠い。自分を呼ぶ声はするのに、起きようという気になれない。それより、目の前にいる男の方が気になってしまう。和風の人形を両手で持ち、持ち主もまた紺の着物姿だが人形の方が桜の模様が入った目立つ着物だった。
ぼんやり見ていると、男は伏せていた目をこちらに向ける。どことなく影のある表情で、目も空虚。もしかして眠いのかなと思った。思った途端、急に眠気が増してきた。反対に男の目は刺すように強い目つきに変わり、口元には笑みまで浮かべて喋りだす。
「調度良いところに来てくれた。探してたよ、よかった」矛盾する言葉だとわかりつつ、最後の「よかった」に相槌を打ってしまった。「あの学校なら隣の子でもよかったけど、君の方が私の好みだから君にする」…すごい事を言われた気がする。それより、学校?
今年自分が卒業した学校の人を探していたんだろうか?確かに卒業式を挙げようと、来月
新入生が入るまでは一応在籍扱いと聞いたような…駄目だ、眠くて頭がまわらない。
「何なんだろう…」
「12年に1度の話だよ。あれを伝えなきゃいけないんだ。あぁ、12年前の事、綺麗に忘れてるなぁ」
知らない。聞いた事ない。そもそも伝えるって何なのか。
「だから、それを今から話すんじゃないか。君も話してね、12年に……………それでは、よろしく」
話を聞き終えた直後、軽く体を揺さぶられる感触と自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。目を開けると隣の席に後輩がいて、寝るの自体は良いが窓ガラスに頭をぶつけすぎだと笑われる。
とっさに窓ガラスの方を見ると、緑色の木々と山道と車内が映っていた。自分は夢の中で眠いと感じていたのか。随分リアルな夢だった。
外の景色を眺めながら、後輩のお喋りとテレビの音を聞く。
しかし、どうしても夢に出てきた男が気になって仕方ない。でも、あれは夢だ。
外に、ひっそり咲く桜を見た、テレビから桜という言葉が聞こえた、男の声が頭に響いた、
「噂話があるよ、桜に攫われる話」
「え、噂?何ですかそれ、詳しく教えてくださいよ!」
飛行機の中で、山の緑に混じる桜色を見て考える。自分はどうしてあんな話したんだろう。
人形を持ち直す。後ろに知った顔の気配がした。
少し疲れてたから、あまり元気な対応はできない。そう言うと、いいから話は聞けと、と一蹴される。続けて、桜と人間が逢う事について疑問の声が出た話もされた。
「ごめんねー、今回はもう遅いのでそう伝えてねー」
心が篭ってない、との文句に続き、桜があの学校の人間なら一目でそうとわかるのを早く何とかしろ、と続けられた。自分の横に、噺家みたいな格好の男が座している。どことなく影のある表情で、目も空虚。その顔の向こうにある物が透けて見える。昔からこうだったわけではないらしい。
確かなのは、彼の存在が連れ込む人間を限定するという取り決めに大きく貢献しているという事だ。
「全部縁だよ縁。彼だって縁が切れたらどこかに行くさ。まぁ行かない方が助かるんだけどね。
騒ぎの種になったら困るし。それにしても、さっき逢った子は本当に好みだったんだけどな」
それにもし、全人類を相手にするとなったら、自分はこの役を辞めさせてもらいたい。そんな大規模なもの、自分の扱うものではないだろう。
お前まで面倒事を起こすなよ、といらない心配をされた後、綺麗な字で何か書かれた紙片を渡された。今回、面倒事を起こす気でいる又は面倒事を起こす気配のある桜の名前だ。
「獅子、射手、魚、水瓶。定員内に収まってるなら良いんじゃないの」
あと1枠余っている。さっきの人間の顔が頭に浮かんだが、もう遅かった。