魚に双子達の方へと送ってもらう。蠍は家で待つと言う。
「着物でも見てるよ。どうせ魚の用事はすぐ終わるんでしょう」
どうせ、の辺りで着物を手にしたまま、一度振り返った。それに対し、うん、という意味で頷く。
「まぁ俺がどうなるか偶に見てよ。ちょくちょく公園に来るさ。また会える」
「そう。でも泣き言とか言いに来るんだったら来なくていいよ」
「えぇ、僕は来て良いと思うよ!双子君でも連れて来て」
「連れて来れなくなった場合の話だよ。魚を疲れさすような事はしないでね」
「蠍…」
自分が入れない世界が構築されようとしていた。
「世界ってどこにいても作れるよねぇ」
「どうしたの。急に詩人になって」
と魚が聞いてきたが、聞こえなかった事にする。
魚も蠍も確かにすごく満ち足りた様子だが、破滅に向かって突っ走るのを怖くないと言う姿を羨ましいと言うほど悟っていない。自分なら、どうにかして少しだけでも最期の時を遅らせたい。
「そろそろ頼むよ。じゃあね、蠍」
その言葉に、ひらひら手を振られた。そっけないが子供っぽい動作が見ていて和む。魚に万華鏡を投げてもらった。この調子ならすぐ使いこなせるだろう。
あっと言う間だった。
いよいよあちら側に出た。あっけない程簡単に来れた。
足元に転がっていた石を蹴ってみると、同時にぱっと砂埃が舞った。記憶も感覚も、問題ない。
人が連れ込まれると色々故障が出てくるのに対し、桜の場合はそうでもないらしい。
見た目が人か植物かの違いがあるだけで、元々どちらにもいる存在なのだからとはいえ不平等な気もする。
(ただし、やっぱ長い時間留まるには都合悪いんだろな)
その日その日を暮らす方が、安定した日々を送るより簡単かもしれない。寿命も人間の比ではない一方で、木が駄目になったら人の形をしている方も駄目になる。
(ま、双子が嫌がらないなら何があってもいけるかね。とか考えてみよう)
桜が人と一緒になろうとするのを、人は攫われると言う。逆は連れ込むと言う。自分はやり直すと言う。双子は何と思うだろうか。少なくとも今、もう攫われたなんて言われない所に来た。
「ねぇ、こういう贈り物されたら、12年後に射手を…なーんて魔が差しそうになるんだけど」
「ちゃんと帰らせてくれるなら良いよ〜」
「やった〜」
…桜の雰囲気が変わった。むこうに住んでる人の感情も反映されるのか、知らなかった。うわぁ蠍怒ってる嫉妬してる。
「今は魚が蠍のとこに帰ってあげないと」
「そうだね」
万華鏡がぽーんと投げられた。笑顔が一瞬崩れて、名残惜しそうに見えた。けど、それも消えてしまった。
「二兎は追えないって…そんな器用じゃないよ。でも、ちゃんと会いに来るよ」
自分は着物の襟を整えて、逢いに行く為その場を離れた。