「こんばんは〜」
牡牛と水瓶がここに来たのは、もうすぐ日が傾くかという頃だった。
「水瓶、牡牛君、いらっしゃい」
現在、魚はいつもの笑顔で接しているが、
『昨日の夕方、乙女を帰したから。今日中には絶対そっちに来るんじゃね?』
今朝、獅子が知らせを持って来た時は苦笑いだった。
ちなみに話した方は、扇子で扇ぎながらカラリと笑っていた。が、どうして帰す事になったのか聞いた途端、帰ってしまった。
「お茶淹れようか?牡牛君は食べ物好きだったよね、お菓子もいる?」
「あはは、おかまいなく」
「気軽に食べ物与えちゃダメだよ、本当によく食べるんだからね?」
座っている自分達に対して、牡牛と水瓶は現れたっきり、座ろうとしない。自分と魚は見下ろされている状態だ。
「もう時間もないし、いくら俺でも食べてる気にはならないよ」
「時間?好きなものを放っておくほど時間がないのかな」
「桜がいるこっち側と皆がいるあっち側。行き来できるのって、精々今日までらしいです」
しばらく、薄暗い室内で柔らかく笑っている牡牛の、悪意の欠片もなさそうな顔を見つめてた。
それが返事をしているようなものだと気づいたのは、見ていた笑顔の目つきが変わってからだ。
「蠍先輩は知らなかったんだ。何日も一緒に居るのに。どうして魚は言わなかったの?」
隣に座っている魚を見る。微動だにしないまま、少し見開いた目で斜め下を向いていた。