星座で801ログ保管庫出張所

桜に攫われる話 089

『違ったら悪いんだが…これ、牡羊のか?』
そっけない文面。このメールが来たのは、部活が終わった後だった。
『違わないよ』
乙女、あれからまだ登録してなかったのか…。
この後、急に連絡したのを謝っていたので、気にするな!と返しておいた。
(なんだか…いなくなった人が戻ってきてる?だったら、あとひとりで全員帰還じゃん)
蠍。双子のクラスメートで、
「あ、牡羊くん。さようなら」
蟹のいとこ。
現在地、桜があった門の傍。ここで会うのは久々だ。
(そうだ)
双子から貰った絵。あれから考えた。結果、こうするのが1番だという結論に落ち着いた。
鞄からクリアファイルを取り出し、そこからまた絵を出す。
「蟹さん、これ、あげます」
「…はぁ。ありがとう」
明らかにスケッチブックを破った紙に書いた絵を突き出され、一瞬面食らってる。ま、ただの走り書きにしか見えないものを受け取ってくれただけ、ありがたいと思うべきか。
「これ、木?」
「あー。そうです、前に兄ちゃんと電話した時、3年生がいたでしょう?あの人がいらないって感じで渡してきた物です」
…桜です、と言ったら嫌な事を思い出させてしまいそうだ。
「牡羊くんが貰った物なら、そのまま貰っとけば?」
「えーっと、うん、俺が持ってても仕方ないというか。絵とかあんまり興味ないし」
「じゃあ素直に私が貰おうかな…誰が描いたの?双子くんだっけ?あの子?」
「いやぁ双子先輩も誰に貰ったか忘れたらしいんですよ」
セールスに会ったような顔をされた。
「あぁ…うん…貰うだけだよね、ありがとね」
何かすんません。
(こんなに暢気にしてられるのは、俺が蠍先輩とほぼ面識ないからなんだろうなぁ)
苦い気持ちでクリアファイルを鞄に戻そうとした時、天秤に貰った写真が目に付いた。
最も学校の近くにある街路樹の桜。最近花見で有名になった公園の桜。街のど真ん中にある庭園の桜。林の中に咲く桜。
役に立たず仕舞いになりそうな写真、天秤には悪いがこの世には直感とか偶然とかいうものがある。絵のついでだ、
「今なら、写真も1枚つけます」
何が写っているかはわからないようにして、トランプのように写真4枚を突き出す。
「じゃあ、これで。…あ、桜の写真か。さっきの絵も桜?」
「んっと、そうです」
怪しいのは公園の桜だろうか…流石に公園のものを壊すのは、利用者や警察の人に怒られる。
「綺麗だけど、なんだか…」
「どうかしました?」
「…元気がない感じがするなぁって」
そうだろうか。他より控え目な雰囲気なので、そう見えるのかもしれない。
(…ん?)
写真、つまり桜が4本。攫われた人間が3人。
(…いや、桜と人間が同数である必要なんかないじゃん。何考え込んでんだか)
免罪ふっかけたら失礼だろう、桜に対して。
『違ったら悪いんだが…』
乙女から送られてきた文面。
(そういや俺、いつ乙女にアドレス教えたっけ)
1週間以上も前のせいか、思い出せない。ただ自分から教えた覚えはない。乙女からでもない、先刻のあれは言い出した張本人が送る文章じゃない。
わざわざメールが来たのは、登録していないアドレスだったからではなくて、
(覚えのないアドレスが登録してあったから?)
双子からのメールを思い出す。何か妙なところがあったりしないだろうか。受信ボックスを眺めても何も変なものはない。
(気にしすぎと言われたらそれまでなんだけどさ…自分がやった事でも忘れるってよくある話で…)
それでも、どう行動すればいいのかわからない。もはやお決まりのパターンだった。