星座で801ログ保管庫出張所

桜に攫われる話 085

朝食を食べ終わる。二度寝でもしたくなっていると来客があった。
「獅子と乙女じゃない。おはよう」
自分に続いて、包丁片手に遊んでいた牡牛も挨拶する。
「乙女ーおはよー。獅子もおはよー」
「うん、おはよう」
「あぁ、おはよう。邪魔するぞ」
乙女はまだこの家が好きになれないのか、澄んだ水面を見て苦い顔をしていた。
(本当に、この子は愛想というものくらい覚えた方がいいかもねぇ)
でもそれより気になったのは、乙女の服装だ。獅子が貸している白っぽい浴衣から、学校の制服に変わっている。それを見た牡牛が首を傾げる。
「服、突然どうしたの?まぁいいや。遊ぶ?」
「いや、今日は遊ばない」
水面から目を離すと、元の無表情に戻っていた。その横で獅子が腕を組む。
「んー。じゃあ何する?」
「俺、今日帰るから。それを伝えに来た」
「……」
「獅子から聞いても信じないだろう?だから、直接言うのが1番良いと思って」
「俺も疑われたらたまんねーからな。水瓶、お前証人な」
「あら?急展開じゃないか」
無言の牡牛に代わり喋った。
「そんな事ない。牡牛は帰ったほうが良いと、前から本人に言っていた」
「いやいや、それと貴方が帰るのとは少し違うんじゃ?」
「俺と双子先輩と蠍先輩が帰ったら、牡牛も帰る。これは牡牛も言っていただろう。けど、そんな事を言われては、俺は牡牛が帰るとわかるまで帰る気にならない。双子先輩が帰ったので残るは俺と蠍先輩だが…考え方と順番を変える事にした」
「へぇ」
「牡牛が帰るとわかったら俺も帰るのではなくて、俺が帰ったら牡牛も帰ってくれると思う事にした」
「ちょっと待て」
聞いた限り、完全に無視されている存在がいる。
「獅子は?桜が人を連れ込む理由、忘れたわけじゃないよね?それはどうなるの?」
「それなら許可したぞ」
平然とした声が飛んできた。
「何せ、こいつのものは俺のものだからな」
「えっ、何その発言」
ようやく牡牛が口を開く。
「あぁ、乙女が帰ってからお前が帰るまで、勝手に自己流に面倒見させてもらうぞ。協力はしねぇが見守りはしてやる。遊びてーなら好きなだけ遊んでやる、短い間だろうが有り難く思え。
誰かさんの代わりだ。ちなみに帰らないとかほざいたら鉄拳制裁で」
「え、やめろ。お前がやるとシャレにならない」
「愛情だ愛情。時間もないしな、どうしようもないと判断したら千尋の谷に突き落とすだけだ」
「突き落とした結果帰れなくなったらどーするんだ!?」
「何だよもう、文句があるなら言う時間たっぷりあったろ。今頃言うな」
「谷に突き落とすってのは初めて聞いた!」
いつものだ。これ以上、獅子と乙女に会話させると口喧嘩が始まりそうなのでそれを打ち切る。
「お互い納得してるなら、問題ないかな」
やせ我慢が透けて見えるものの、この2名にしては平和な終わり方だと思う。
「んーと、つまり、獅子に自分のやりたい事、任せたんだ?」
「うん」
「というわけで牡牛、俺を信用していいぞ!」
途切れ途切れに話していた牡牛の肩を獅子が笑顔でバシバシ叩いていた。叩いている方は晴れやかだが、叩かれている方は本気で痛そうだ。それを見た乙女が止めに入る。
来客が帰った後、牡牛は空に向かって呟いた。
「そうそう、俺も帰らないと」
「ま、そうだね。私も獅子もいつまでもこうしてられないし、時間だって限られてるもの」
「具体的には?」
「えっ前にも言わなかったっけ?」
「はいはい、明日までだよね」