星座で801ログ保管庫出張所

桜に攫われる話 084

暗闇に降らせていた花びらを、こちらに向かって飛ばしてやった。どうやら気に入ったらしい。
楽しそうに見ていたが、手元まで来たものを捕まえようとして空振りしたのをきっかけに、少し落ち着いたようた。落ち込んだとも言う。
(逢った時も花見て『綺麗』とか言ってたよなー)
連れ込むなら、5組の中で1番目が良かった。連れて来たら、そいつの前では格好良くいようって。
…3日ももたなかった。自己紹介もしてもらえなかったのと、逃げ回られたのと、失礼な勘違いされたのと、周りは上手くいっていたのと、食事すら拒否されたのが主な理由だ。
(…忘れたままで良かった事を思い出してきた)
「な…何だ不機嫌そうな顔して。どうかしたのか」
「乙女が『逢った時、1番が良いとか言っていなかったか?』って言うからだ、ばーかばーか」
「馬鹿ってな…あ。もしや俺の記憶違いか?」
「言ったよ!そんだけだ、単に1番好きなだけで深い意味はねーよ」
「あぁ性格的な事か。腹立つけどお前らしいと言えばお前らしい気もする、腹立つけど」
納得したのか呆れたのか、ひんやりした目で頷かれる。
桜が咲く時期も終わりつつあるので桜以外を降らせてみようかと思案中、部屋の掃除を終えた乙女が、真っ暗闇ばかり見てどうしたのかと聞いてきた。話してみると、見納めになるなら見ておこうと言って座りこんだ。
数分後、『あ、そういえば』と、口を開いたかと思えばこれだ。
「ついでにもうひとつ良いか?」
「あ?」
次はどんな記憶を蘇らせやがるんだ、こいつは。
「実は違う人を連れてこようとしていたとか、そういう手違いで俺はここにいる…とか、ないよな?」
「どうしたらそうなるんだよ」
初めて逢った日まで巻き戻し。
水瓶『恋した人を家に入れた初日から喧嘩ねぇ。これから大丈夫なのかね』
乙女『今、何て』
獅子『水瓶、期待してるもんは見れないから帰れ』
現在まで早送り。
「些細だなおい!心配性にも程があるぞ!」
「あ、ああもう悩んで損した!違うならいいよ良いんだよ今聞いたことは忘れて過ごせ!」
顔色を見る。自分で言ったくせに忘れたままで良い蘇らせたくない記憶だったようだ。
しばらく肩で息をしていたが、やがて言った、
「俺は、いつまでこうしてられるんだっけ」
「ちゃんと話し合って決めただろーが。明日までだ明日」
「よし。明日忘れるから言っておく」
「今度は何だ…」
「ありがとう」