「ちっくしょおおおおおおお!!お前ら一体何なんだ!!!」
吼えながら畳の上でジタバタする獅子に冷たい目を向けた。
「騒ぎすぎだ。お前だって勝ってただろ」
碁盤、碁石、花札などなど。散らばった室内ゲームの類を片付け終える。
あれから4名で遊んだが、一晩泊まり遊び倒した牡牛と水瓶は先刻、水瓶の家へと帰った。
「総合的には俺が1番じゃねぇだろが!」
子供か。
「まぁ水瓶も…変なところで運が良かったり妙な作戦立てる奴だな…」
「昔はもう少し素直だった気がするのになぁ…少しからかってたら捻くれやがって」
「…本当に『ちょっと』なんだな?」
「そうだよ?牡牛も何だあいつ…地味に強ぇ…」
「小さい頃はそうでもなかったのになぁ…いつの間にか強くなっていたな」
「…お前とゲームしたのが原因って気がするぞ」
呆れたように苦笑していたが、背伸びをすると、
「あー、騒ぎすぎた。全然眠くねぇ」
弱い灯りの中、布団の上に座り込んだ。それだけなのに、場違いなほど堂々として見える。
「…あのさー…。…」
「何だ?黙ってないで言え。…これを言うのも久々だな。今や煩いくらいだからな」
「牡牛に帰ってもらう方法でな。双子先輩が帰っただろ、それで」
「おやすみ」
「眠くないんじゃなかったのか!」
掛け布団の上から背中を叩いた。が、効果はない。もう背中にむかって喋る事にした。
「牡牛は3人帰るまでここに居るつもりだろう?今は2人か。とにかく」
「理屈っぽいし細かいし面倒だし、そんなお前と俺はよく付き合ってる、俺すごい」
「こんなに偉そうな奴と俺はよく付き合っている、俺もすごい」
返事なし。
あの獅子がひとことも言い返されない。
「さ、更に言うなら食事しなかった時とか殺したいほど面倒だっただろ」
「うん。あんなに我慢したのは間違いなく生まれて初めてだ」
(そこまでなのか!?…どう見ても尽くすタイプじゃないけど…)
「逢った時も謎だし。そっちから近寄ってきたし」
痛いところ突きやがった…。
「そうだ。牡牛が帰るならお前も帰らさなきゃ!」
「え」
今、何て言われた?
「どーした?お前が帰らねーとあいつも帰らねーと思うぞ!?」
向き直った顔は、顎を上げると文字通りこちらを見下していた。
「な…何でもない。そうだ、最初は牡牛が来た事に困惑したが、今はそこまででもない」
言おうとしていた内容なので、すらすら喋れる。
「こんな事でもなきゃ帰れる気がしない。俺がいない事になってて、連絡を取るのだって初日にはもう諦めて。そこに自分と来いと言ってくれる人、牡牛以外に知らない」
「そーだな」
望み通りの展開なのだが…このアッサリした会話には物申したくなる。
(…いや、今の流れを切るのは勿体無い)
「ただ、帰ると言っても牡牛をひとりで残すのは心配なので、一緒に連れて行きたい」
「まだ蠍がいるじゃねーか。乙女が帰っただけじゃ無理だぞ」
「だからって水瓶に任せられるもんか。俺の幼馴染だ、俺の」
「牡牛を1回抱きしめただけで随分評価が落ちたもんだなぁ。あれは俺の友達だぞ、俺の」
「あれが牡牛ではなくその辺の奴だったら放っておくんだが…」
「はいはい幼馴染が大好きなのはわかったわかった」
「おかしいか?」
「…………………」
十年以上一緒にいて、いなくなったら来てくれて、策が尽きかけてもここにいる幼馴染の存在が大きいというだけの話だ。黙り込まれても困る。
「…お前のものは俺のものだからなー」
「何だそれ」
「自分の分に加えてお前の分まで見てやるんだから有り難く思え」
偉そうな笑顔で言い終えると、また背を向けられてしまった。