「やっべ…気分悪っ…俺どれくらい飲んだっけ…今何時くらい?」
「もう夕日が沈んだよ」
床に転がったまま、廻し合羽に包まり動かない射手へ魚が水を渡す。
「それと、僕の家からお酒がなくなった」
「ごめんよ…いつか買うから…」
将来、酒を飲んでもこんな酔い方はすまい。そう心に誓っていると、
「蠍…酒は飲んでも呑まれてはいけない…」
「言われなくてもわかったよ」
そもそも、一晩以上休まず飲み続ける機会なんてあまりないと思う。
「こういう時は自分の家が居心地悪いんだよね…あの浮遊感が二日酔いにくる…」
どうしてそんな家を作った。
「遊びながら作るからそうなるんだよ」
そんな時に遊ぶなよ。
「どうして作ってる時に止めてくれなかったさ…」
「止めたじゃない。でも大丈夫だって言ったのは射手だよ」
「そうだった…あの頃の俺って馬鹿だ…」
今は違うのだろうか。
「今もお馬鹿さんだけど大好きだよ射手!」
「馬鹿って烙印押されたけどありがとう魚!」
まぁ自分の方が好かれてるんですけどね。そうだよなそうなんだよな魚。
「お酒を飲むなら獅子くんの家でも飲ませてくれただろうに、どうしてここに来たの」
水瓶の家とは言わない。何せ家主と一緒に居る牡牛は、射手のトラウマと化したようだ。
(トラウマさえなければ、泣いてここに来る事もなかったのに)
「だって、魚の家の方が近いし…獅子の家には直接入れないから歩く事になるし…」
「歩くのが嫌なら走ればいいじゃない」
「…獅子の家と水瓶の家って近いし…」
「あぁ、そうか」
思えば、獅子と水瓶がここに来た事はあっても、迎えに来るという用件で来た事はない。それがあるのは射手だけだ。家から家への距離を考えれば当然かもしれないが。
「さっき家を作った話をしていた時も、獅子くんと水瓶くんの名前は出てこなかったね」
その場に居たとしても止めそうにないというのは置いといて。
「僕と射手は家が近いからねぇ。付き合い長いんだ」
「付き合い長いのか。へぇ」
その言葉を聞いて、懐かしい顔が頭に浮かんだ。
「どしたの?」
射手が起き上がり、首を傾げている。
「いとこを思い出した。勤め先が私が通ってた高校だから、射手は見た事あるかもよ」
(ここに来た日に会った人達の中では、蟹さんが1番付き合い長いからねぇ。今頃何してるかな)
そういえば蟹には、入学した時何かあったとかで気にかけている生徒がいた。
相当気に入ったのか、随分ご贔屓にしているなと思ったし、何よりよく見ていると、その生徒は蟹に惚れている気すらした。結局あれはどうなったのだろうか。
「そこまで道行く人を観察してないからなぁ。とにかく、ま、魚も蠍も気をつけてよ」
「牡牛君の事?悪い子には見えなかったよ?のんびりした雰囲気の子だなーって思ったよ」
「あの徹底的さは充分怖いって」
コメントしがたい。
それにしても、いつまでこのやりとりを続けるのだろう。丸1日が経過してしまいそうだ。気の毒に思い付き合っていたら、随分と時間を使った。
「ねぇ。その怖い子、私の後輩なんだけど」
「…そうだった…それじゃあ聞いてて気分良くないねぇ…う…」
ようやく口を塞いだか。
「うわあああ蠍いい子だったんだねえええええ」
…逆にうるさくなった。おまけに重い。抱きつくな。酒臭い。
「うわあああ蠍も射手も大好き!!」
重い。でも許す。
「ありがとねー!!俺復活したっぽい!!…」
「まだ気分悪いんじゃないか…」
「酒ってね……量はお茶と変わらなくても体を攻撃してくるんだ…持続性すらあって…」
「それは射手の飲み方が悪いだけだと思うんだ」
魚が笑顔で言い放った。ただし疲れや怒りや哀れみのせいか、目が死んでいる。