星座で801ログ保管庫出張所

桜に攫われる話 079

「やっべ…気分悪っ…俺どれくらい飲んだっけ…今何時くらい?」
「もう夕日が沈んだよ」
床に転がったまま、廻し合羽に包まり動かない射手へ魚が水を渡す。
「それと、僕の家からお酒がなくなった」
「ごめんよ…いつか買うから…」
将来、酒を飲んでもこんな酔い方はすまい。そう心に誓っていると、
「蠍…酒は飲んでも呑まれてはいけない…」
「言われなくてもわかったよ」
そもそも、一晩以上休まず飲み続ける機会なんてあまりないと思う。
「こういう時は自分の家が居心地悪いんだよね…あの浮遊感が二日酔いにくる…」
どうしてそんな家を作った。
「遊びながら作るからそうなるんだよ」
そんな時に遊ぶなよ。
「どうして作ってる時に止めてくれなかったさ…」
「止めたじゃない。でも大丈夫だって言ったのは射手だよ」
「そうだった…あの頃の俺って馬鹿だ…」
今は違うのだろうか。
「今もお馬鹿さんだけど大好きだよ射手!」
「馬鹿って烙印押されたけどありがとう魚!」
まぁ自分の方が好かれてるんですけどね。そうだよなそうなんだよな魚。
「お酒を飲むなら獅子くんの家でも飲ませてくれただろうに、どうしてここに来たの」
水瓶の家とは言わない。何せ家主と一緒に居る牡牛は、射手のトラウマと化したようだ。
(トラウマさえなければ、泣いてここに来る事もなかったのに)
「だって、魚の家の方が近いし…獅子の家には直接入れないから歩く事になるし…」
「歩くのが嫌なら走ればいいじゃない」
「…獅子の家と水瓶の家って近いし…」
「あぁ、そうか」
思えば、獅子と水瓶がここに来た事はあっても、迎えに来るという用件で来た事はない。それがあるのは射手だけだ。家から家への距離を考えれば当然かもしれないが。
「さっき家を作った話をしていた時も、獅子くんと水瓶くんの名前は出てこなかったね」
その場に居たとしても止めそうにないというのは置いといて。
「僕と射手は家が近いからねぇ。付き合い長いんだ」
「付き合い長いのか。へぇ」
その言葉を聞いて、懐かしい顔が頭に浮かんだ。
「どしたの?」
射手が起き上がり、首を傾げている。
「いとこを思い出した。勤め先が私が通ってた高校だから、射手は見た事あるかもよ」
(ここに来た日に会った人達の中では、蟹さんが1番付き合い長いからねぇ。今頃何してるかな)
そういえば蟹には、入学した時何かあったとかで気にかけている生徒がいた。
相当気に入ったのか、随分ご贔屓にしているなと思ったし、何よりよく見ていると、その生徒は蟹に惚れている気すらした。結局あれはどうなったのだろうか。
「そこまで道行く人を観察してないからなぁ。とにかく、ま、魚も蠍も気をつけてよ」
「牡牛君の事?悪い子には見えなかったよ?のんびりした雰囲気の子だなーって思ったよ」
「あの徹底的さは充分怖いって」
コメントしがたい。
それにしても、いつまでこのやりとりを続けるのだろう。丸1日が経過してしまいそうだ。気の毒に思い付き合っていたら、随分と時間を使った。
「ねぇ。その怖い子、私の後輩なんだけど」
「…そうだった…それじゃあ聞いてて気分良くないねぇ…う…」
ようやく口を塞いだか。
「うわあああ蠍いい子だったんだねえええええ」
…逆にうるさくなった。おまけに重い。抱きつくな。酒臭い。
「うわあああ蠍も射手も大好き!!」
重い。でも許す。
「ありがとねー!!俺復活したっぽい!!…」
「まだ気分悪いんじゃないか…」
「酒ってね……量はお茶と変わらなくても体を攻撃してくるんだ…持続性すらあって…」
「それは射手の飲み方が悪いだけだと思うんだ」
魚が笑顔で言い放った。ただし疲れや怒りや哀れみのせいか、目が死んでいる。