(乙女の奴、牡牛と喋るのに没頭しやがった…。仕方ない。俺が確認してやるか、湯呑はっと)
手にとって見る。傷ひとつない、異常なし。見つけたので届けた、ただそれだけか。
マッチが使えなくなっている事にも気づいてないようだ。除草剤だって荷物確認に気を配っていれば、話し合いでここに居る時、気づいただろう。
(鞄を持ってはいるけれど、中身に関する関心は薄いのか?)
そもそもあれだけの人数が集まった場で持ち物を使わないというのはどうなのか。そういえば、あの日、乙女が牡牛に頼んだのは荷物を使うな、ではなく包丁を使うな、だった気もする。
(最初よりか、危険度が下がってるのかもな)
「あとね、今日はこっちから伝えたい事もあるんだ」
「何だ?」
「双子先輩、昨日あの後、帰ったよ」
穏やかな声色に、先刻から変わらない柔らかな笑顔だった。
「…どうしてわかる?双子先輩が伝言でも頼んだのか?」
「ううん。射手が双子先輩を帰した場に、偶然俺と水瓶が来ちゃっただけ」
そういえば、やけに水瓶が静かだ。見ると明後日の方向を向きながら、
「残念ながら本当なんだよね」
話の保障だけはした。
「そう言われても説得力に欠けてんだろ、証拠もってこい証拠」
「物質的なものはないので、そろそろ皆焦り始めたとかで納得してもらえないかね」
あ、これ他人事じゃねえな。
「…お前達の事を覚えたまま帰り、後でまた逢えるという都合の良い展開は」
乙女が嫌な予感にトドメさすような事を言い出したので、
「どんだけお花畑な展開だ」
さっさと言葉を遮り断言しておいたが、
「双子先輩も乙女と似た事言ってたねぇ。それが無理なんで射手が帰したみたい」
どうして次から次へと攻撃が飛んでくるのか。
「そんな事より、遊ぼ?」
とりあえずゲームでもして、正々堂々ぶちのめすか。
ここで、いつの間にか近くに来た水瓶がキリッとした顔で耳打ちしてきた。目の辺りがキラッとした気もする。
「乙女に触らなかったのは良い判断だ。牡牛に触ったのを見ただけで蹴られた上に変態呼ばわりされた私の犠牲も浮かばれるというものだよ」
「いつからここにいた…」
「気にしたら負けだって。今の私は友人の判断力を評価している」
「悪ぃが犯罪者呼ばわりくらいなら既にされてんだよ」
「可哀想な子だな貴方…」
「よし、お前もぶちのめす」
もう一度罵倒された上に暴力に訴えながら怒られてみろ、プライド修復不可能だ。