家に帰ると、出迎えたのは友達とその連れだった。
「おかえりなさい射手!お風呂にする?ご飯にする?それともわ・た・し?」
「水瓶が思いつく限り最高のサービスで」
「了解。じゃあ私で」
「おし。動くなよ」
「待って待って待って弓矢は待って的は待って」
「気持ちは察するけどねぇ。俺でもやっぱり刺そうとするわ」
「それ牡牛が言うと洒落にならない!」
水瓶の横に居る牡牛は、相変わらず包丁等の入った鞄を持っている。
「ふーん。無重力かぁ。結構楽しいね」
「その図太さは宝物だよ」
幼馴染にも少し分けてやれば、獅子もプライドを粉にしなくて済んだだろうに。もう復活しているから構わないのだろうか。いや、応えてくれたから構わないのか。
(水瓶と牡牛の関係は何なんだろうな)
この人間が友達の恋愛に亀裂を入れると気づかない鈍感野郎じゃないはずだ。それを承知の上で連れたい何かがあるのだろうか。昔から、少しいやかなり変わった奴なのでわからない。
「あのさー、俺は今ちょっと感傷に浸りたい気分なの。悪いけど、用があるなら次にしてよ」
「悪いけど、俺の用に関係してるみたいなので帰らない」
「…言い訳させてほしいんだけど、私達がここに来たのは本当に偶然だから」
「いつ来た?」
「…『もう人間のとこ来ちゃえよ。いいじゃん、俺居るしさ』辺りで固まりました…」
本当に偶然来ただけのようだ。
「魚の家で俺が蠍に怒られてる時は去ったくせにさー」
「帰らずに家に入って、って頼んだのは俺。そろそろ用を済ませて良い?すぐ終わるから」
「どうぞ」
「双子先輩を、帰してくれたんだね?また攫おうなんてしないよね?」
言い方が少し柔らかいのは優しさだろうか。焼け石に水だが。
「そうだよ。元々、俺は何日経っても幸せには出来ないようでしたので。もう潮時だろ?なら、帰すべきだろ?お前は見てないけど、幼馴染もこのまま体を壊すんじゃないかってところにいた日もあるんだよ?さ、喜んで。お前の先輩は健康体のまま、明日から以前の生活を送る」
「乙女がこんな世界に耐えられるメンタルしてないのくらい知ってるっての。水瓶の家を見ただけで俺より慌ててたし。双子先輩がどうかはともかくね。ま、俺としては帰してくれてありがとうだよ」
「むこうでは、俺は別の姿で居るんだから。もう忘れられてたけど。俺は平気。桜って人間と同じ世界にあるでしょ?今見えてるのは、その一部みたいなもん。世界はちゃんと繋がってます。
ちょっとくらい話せなくても平気だよ。ほんとに」
「そう。もう一回言うけどありがとう。
俺の目的がひとつ達成だよ。じゃあ水瓶、帰ろっか」
「待ってよ。双子の事よくわかんないのに、こういう事やってんの?」
「3人の中で、俺がよく知ってるのは乙女だけだよ」
「じゃあ、俺や魚は放っといてくれても良かったじゃんか。わかんないんでしょ?」
我ながら獅子に酷い事言ってるが、冷静に考えればそうなのだから仕方ない。
「双子先輩に会いたがってる奴がいるんだよ。全員助けて攫った奴殴りたいって、ヒーロー物の見すぎみたいな事言う奴でね?俺はそいつと少し意見が合わなくて、こうしてるんだけど」
双子に会いたがっているとは、どういう事だろう。元々は嫌いだったのに、いざ離れるとなると気が変わったのだろうか。そんな中途半端な嫌い方なら、記憶が消えていると思うが。
もしや、自分のした小細工が効いたのか。良かった。そいつと双子は明日にでも会えるだろう。
「大体、俺のした事の何が悪い?元に戻して帰そうってだけだよ。別に殴るとか言わないよ?帰してもらえれば後はどうでもいいもの」
…自分で言っておいてなんだが、双子は初めて会った時よりずっと元気になっていた。その時一緒にいたのは自分だ。
(って、元気なかったのは忘れちゃったからか。俺達が攫っちゃったからか。そりゃあそっか)
「水瓶、ちょっと良い?」
呼び寄せると、小声で耳打ちする。
「お前が牡牛に協力してるのって、俺達がしてる事に反対だから?」
「違うよ。幸せそうなら何より、って、何日か前にも言ったでしょ」
自信のあった予想が外れ、ますます疑問が深まった。
「じゃあ何でよ?」
「私は皆の幸せを祈っているよ?」
疑問に疑問で返すと、水瓶は牡牛を連れて帰って行った。