星座で801ログ保管庫出張所

桜に攫われる話 070

蠍と逢えて幸せと言う魚。同じく幸せそうな蠍。それを見て、自分も12年に1度の話に参加したのだった。
「あ、ちょっと待って。双子、ここにいてね」
魚と蠍を送り、こちらも双子と帰ろうかという時。気まずい話をしまくった日だ、この勢いで聞いてしまおうと思う。
「蠍も、ちょっとここにいてね。すぐ戻るから」
「わかった」
元より、蠍が魚の頼みを無碍にする事はない。少なくとも見た事はない。
引き出しのついた棚の方へと向かう。魚が躊躇いなく取っ手を掴んだ。
「簪は?まだ無理そう?」
桜をモチーフにした白い簪が入っていた。引き出しの底が透けて見えるほどの透明感で、下手に触れればすぐ壊れそうな物を、よく日常的に使えるなぁと思ったものだ。
今となっては触れずとも壊れている。足の部分は何箇所も折れて、元が何だったのかわからない。
「下手に直したら変になりそうでねぇ。そう思ってる内にどんどん壊れちゃった」
「花が代わりになるのは今だけだよ。冬になったらどうすんの、枝使う気?」
「枝使えるまで居れたらだけど…いつまでも来て貰うか迎えに来て貰うかじゃあねぇ。どうしよう」
ただでさえ小声で喋っていたのに、声は益々小さくなる。
「…どうしよう」
やっぱり聞かなければよかった。
「…代わりの物を用意すればいいじゃん」
「ま、まだ使えるかな?物じゃなくて僕が」
本当に聞かなければよかった。
「魚が言って楽になりたい事なら、私が聞く」
近くから声がした。自分も魚も真っ青になって蠍を見る。そのずっと後ろに居る双子が、
「あー…よくわかんないけど雰囲気が変だったと言いますか…」
「そ、そっか〜?…」
「聞かないでって頼んで良い?」
「それなら、今は聞かない」
そう言われると魚は笑った。
「また遊びに来るから」
「うん、またね」
元の満ち足りた笑顔に戻っていた。
(付き合いが長いってのも困ったもんだなぁ。知らなくていい事まで知ってるからな)
では、それを補う役は付き合いが短い者かと言うとそうでもない。どこの馬の骨かわからない奴に預けられない。怒ると怖くていいから、蠍にはここに居てもらいたいところだ。
幸い、本人が嫌がっていない。自分も嫌がってる人を無理矢理居させたいとは思わない。
(…うん)
「双子、俺の家に帰ろう」
「了解了解!」
自分の傍へ走ってくる。明るく溌剌とした、可愛い人だ。万華鏡を投げた。