「はい、返す」
「やったー!」
お菓子を取り戻した牡牛はご機嫌だった。傘を使わずに済んで何より。
「で、どういう結論が出たの?」
「僕達のほうは…とりあえず、今のままで」
面子からして予測できた答えだ。現状にそこまで不満がない4名ならそうなる。
「こちらは結論が出ないまま平行線だねぇ」
これも予測できた事。全員の目的がバラバラで、しかも誰も他に合わせる気がない。
(人の幸せに干渉するからー。相当の気力を奪われてるだろうに。自分の為に暮らせば皆幸せなのに)
「でも、やっぱり正直、お前は帰って良いと思う。疲れただろう」
「そう怒らないでよ」
牡牛は砂糖菓子をひとつつまむと隣に座っていた乙女の口に放り込む。
「美味しいでしょ?」
「…ん。……」イライラ
「幼馴染なめんな。相手が口論強いなら口を塞げばいいじゃない」
「蠍!僕もあれやりたい!」
「ちょっと周りの人数多いかな」
砂糖菓子を手にした魚を見て、目を泳がせる蠍。人前を意識するとダメな子だったようだ。
押し殺したような笑い声と共に、
「俺は気にしないよ?うんうん、かわいいとこあったんじゃないか」
双子が言った。反応してみせない態度が心境を何よりも雄弁に語っている。
「牡牛、帰りたかったらいつでも言いなさいな。帰してあげるから」
「ん?いいや、帰らない」
「…それでも、私は帰る気ないからね」
「諦めませんよ?」
指に付いた砂糖を舐めながら、蠍を一瞥している。見られた方は、気の毒そうに視線を逸らす。
「あー…。腹減った。とりあえずなんか食わねぇか?」
「肉じゃが食べたい!」
「豚汁な気分だな〜」
「きんぴらごぼう的な」
「「「お願い♪」」」
「茶碗蒸しもお願いします」
「俺に不可能はねぇ!」
台所に直行していった。頼まれ事に弱い奴だ。そしてサラッと注文した牡牛よ…。
「料理なら魚もするのに。美味しいよ」
「蠍もするじゃない!すごく美味しい!」
「蠍先輩と魚っていつもあんな感じですか?」
「彼らがのろけるだけで軽く4名は撃沈できちゃうんだな〜これが」
経験者は語った。
「そういえば、魚、まだマフラーしてて暑くないのか?ここ寒いだろうか」
「大丈夫なんだよ!蠍から貰った物だから!」
「そ、そうか。…片付けられる物は片付けてくる」
急須と菓子を乗せていた、今は何も乗っていない皿をお盆にまとめだした。それを手にもうひとつの部屋へ寄った後、台所へ向かっていった。
そして台所。
「断れよ!普段偉そうにしてるくせに!8名いるんだぞ8名!食器足りるのか!?」
「うるせーよ!作ったら注目浴びれるだろーが!食事も楽しいだろーが!大丈夫だ作れる!今実行中!」
「うるさい!仕事引き受けて待たせすぎたらダメだろうが!あ、食器足りた、でもお茶のお湯がない」
「だから急いでんだ!食器足りただろうが!為せば成る!湯は待て、今空いてる鍋がねーんだよ」
数十分後、皿を片付けに行った乙女に料理運びを手伝わせながら、
「おい!作ってやったぞ有り難く食え!」
乙女の2倍の量を持った獅子が参上した。どちらも表情はいつも通りだ、しかし声が枯れかけている。いつもの喧嘩後だ問題ない。そのまま全員で昼食となった。