星座で801ログ保管庫出張所

桜に攫われる話 064

「獅子の家には直接入らないんだなー」
花びらが降る真っ暗闇を、射手、蠍、魚、そして自分の4名で歩き続ける。
「入らないんじゃなくて入れないんだよ、ねー射手」
「うんうん。急に入られるのを怒って、直接入れないようにされちゃった」
「気持ちはわかる気がするよ」
蠍は、正確にはわかるというより羨ましいのだろう。
やがて、微かに話し声が聞こえてきた。
「何やってるかな〜」
射手が嬉しそうに微笑んだ。
「案外すぐ見つかるね」
「広い家だけど、普段使う部屋って言ったら割と決まってんの。今回は水瓶が泊まってるし乙女くんと牡牛くんも居るし、あの部屋かなって」
あの部屋とは、桜が描かれた襖絵が目立つ部屋だった。和紙の照明がぼんやり光っている。
派手な桜と、しれっとした桜と、無愛想な後輩。そして本来穏やかな後輩…が、こちらを見て叫んだ。
「あー!双子先輩、乙女に何とか言ってくださいよー!」
ここに来て3日目、だが疲れた様子もない。図太い神経してらっしゃる。乙女がここに来て3日目の頃はどうだったかを思い出すと、正反対すぎて笑いたくなる。
こちらは安心した。
「何々?どうかした?」
「それが…姑息な手を…くっ」
「…。包丁持たずにおとなしくしてろ、そしたら全部返すから」
「何やったんだよ」
「これを一旦没収したんですよ」
こちらに近づくと、自分の学生鞄を開いた。教科書やノートに混じって見えるのは。
袋菓子、タブレット、などなど。とにかく食べ物。
「返せー!」
「やだ」
「…相手の持ってる食い物全部没収するって…俺の存在は食い物以下か?」
「三大欲求のひとつには勝てないみたいだねぇ」
脅されたのは、争ったのは、あれは一体何だったのか。表情がそう語っている。
「こいつの本来の性格は、大体こんなのだ」
今の牡牛は鞄こそ持っているものの、包丁は仕舞っていた。
「あのさ〜。皆、呆れてるけどねぇ。食べ物って大事なんだよ?」
「は、始めまして…魚って名前だよ、よろしくね。…そうだねぇ、僕もそうは思うよ」
しかし限度がある、という言葉が飲み込まれたような。
「ほらー!乙女だって幼稚園の頃から教えられてたでしょ、食べ物は大切ですって!」
「それはそうなんだが」
「お米には7人の神様がいるとも言うし!ご飯は大事ですって幼稚園の頃に先生言ってたじゃんか」
「だ、だけどもだな」
「飴ひとつにだって作ってくれた人の気持ちがこもってるかもしれないんだよ!」
「そ…その…、…そうだな?」
おい…。
「双子、俺達何にも見てないよね」
「うん。だから誰か何とか出来る奴、いないかな〜」
何とかしろよ、と獅子を見るも、
「菓子くらいならいいだろ。うん」
こちらはこちらで心の傷が開いてきたらしい。
「ちょっと乙女!何があったか知らないけど牡牛に食べ物返そうとしないで!よくわかんないけど今はこれで上手くいってたじゃない脱力せざるを得なかったけど!ねぇ誰か!」
「…俺、そんなにまずい事言いましたか?」
不思議そうな、焦ったような、困ったような。そんな牡牛に説明したら長くなりそうだ。
「俺達に聞かれてもな。そんな大事でもないしな。な、射手」
「うん。過去の事だし気にもならないっていうか」
「…僕もそう思うよ!」
「さ、私達は喧嘩を見に来たんじゃないんだから」
「「やめてくれ。逆に辛いからやめてくれ」」