星座で801ログ保管庫出張所

桜に攫われる話 061

「卒業したの…今年?」
落ち着くまで車を止めてしまおうかと思った。
「そうそう。あれ?聞いてませんでした?俺は誕生日来たから、今は1歳差なんですよ〜」
聞いてない。じゃあ山羊は今年で19歳か、十代か。自分と大差ないなんて思って悪かった。電話口ではもっともっと悪かった。でも、これで安心できた。
(聞いた事ないけど私より年上なのは間違いないよね。あーびっくりした。青春真っ盛りの十代が選ぶ相手ではないよね。うん、展開が恥ずかしかっただけだろう。いくらしっかりした子とはいえ疲れただろうしさ、結果ああいう態度になったと)
当然の態度を変な風に読み間違えるだなんて。それと今度から年齢にもっと気を配ろう。
「兄ちゃんがどうかしましたか?」
「仲が良かったから、歳が近いのかと思ったんだ」
「へー。歳が離れた兄弟なのかって言われる方が多いから新鮮。電話口だけだと父親ですか?とかね」
乾燥機で乾かされた制服を弄びながら、笑っている。
「そうなんだ」
「何度か『俺いくつに見えるんだ?』って聞かれましたけど、四捨五入して20歳くらい?としか」
(気にしてた…山羊くん気にしてたよコレ…それとその答え地味に考えさせられるよ…)
居た堪れない気持ちになってきたところで、ナビが目的地まで後50mだと伝えてくれる。
こちらが話題を振ったせいか、兄弟関係の話しか聞けていなかった。
『あれ』は2人揃って夢を見ていたわけじゃないよね?と言いたいのだが、どうするべきか。軽い怪我ばかりだし、結果として助かったにしても、下手に記憶を蘇らせないのが賢明か。
どの道、明日、牡羊は色んな先生方と話すだろう。その時にあの妙な体験を話すのかは置いといて…
今日くらい休ませておくべきだ。
目的地に着き車を止めたものの、ひとりで過ごすには心細いだろうか。大丈夫だろうか。
車を降りようとした牡羊が振り返る。
「大丈夫?もう苦しくない?」
自分を突き飛ばした時、目が怯えていたのを思い出す。
「…大丈夫だよ」
「連絡先教えて」
「あぁ、そうだね。ご両親がいないんだよね、何かあったら連絡しなさい」
「いや、大丈夫じゃなかったら電話でもしてください」
アドレス交換中です、という画面から目を離す。当たり前のような顔をした牡羊が居る。
「え、桜が動いて怖がってたように見えたから。いつも何があっても平気そうなのに」
アドレス交換が完了しました、という画面に変わる。
「あ、自転車出すの手伝ってくれませんか」
軽傷だが、手は遠目でもわかる程に赤かったのを覚えている。今は包帯でグルグル巻きにされていた。
自転車を塀沿いに置く間、ずっと傘を差してくれていた。おかげで牡羊は肩がまた雨に濡れている。
「ありがとーございます」
「気をつけてね。じゃあ、また明日」
「はい、天秤せんせー、また明日」
呼び方が変わったのを聞き、指摘しかけ、今はそんなのどうでもいいと思い直した。