冬。卒業シーズンになると毎年、学校の記録をまとめている。
昨年度の学校誌をまとめていた時。年配の事務員が言った『学校の桜は大丈夫なのだろうか』。
記憶を辿った。働き始めた時の桜、その頭に思い浮かべた姿と変わっていないように思う。
ここに来て10年以下の者は、皆それに同意してくれた。
が、彼の手元を見て驚いた。書庫にあった、数十年前の学校誌に載っていた桜だ。
別の桜かと思った。
『寿命でしょうか?』『桜って短いので60年でしたっけ?』『でもこれは流石に…』
全員の意見が、
『もし処分するとしたら費用はいくらかかりますか』
誰かのこの言葉で流れごと変わった。
『あの大きさは業者に依頼するしか』『でも1本だけでしょう?』『倒木の方が怖いですしねー』
何だか切る方向で話が進みだすと、
『学校の桜はあれだけですよ?入学式は?』
確かに、入学式に桜がないのは寂しい気もする。
『…今年はまだ咲いてません』『記憶違いや写真映りで切ったら…』『今年を見て決めましょうよ』
そして桜が咲いた。明らかに写真と違いすぎる。しかし原因不明のまま騒げない。
連休に業者を呼んで、場合によってはゴールデンウィーク中に対策をとろう。校長先生には知らせたが、なるべく警戒しよう。時間があれば、桜の様子と生徒に被害がないか見ていよう…
と、いう事に決まった。
「結局あれ、何だったんですか?木の真ん中、ありませんでしたよね?」
蟹の話を聞き終わり、そんな事よりこっちとばかりに質問する。
現在、保健室のベッドに寝かされているのだが、実のところそこまで怪我してない。
掠り傷が多いだけで、一見血塗れでも平気で立っていられた。桜が倒れる直前に逃げ出したのが英断だったらしい。これが生存本能と反射神経のコラボか…と唸らされる。
それより、過呼吸気味だった天秤の方が重症に見えた。結局、何事もなかったかのように職員室へ行ったけど。生徒のご両親へ連絡とかで。…電話なら両親ではなく兄がでると思います、と言うのを忘れていた。
「あれなら知ってる。空洞化っていうやつ。えーと、確か枯れ枝とかから菌が入り込んで…」
「い、いや、ああいうのが現実にあるんならいいんです」
てっきり、攫う話に関係あるのかと思った。
雨風による倒木だと思っている蟹に何度も謝られたが、まさかこちらから蹴り飛ばしたなんて言えない。れっきとした理由はあるけど、言ってもただの危ない人だ。
(思い返すとあの桜、俺も天秤ちゃんも眼中にありませんって感じしたような…。でも思いっきり首
狙われたし…いや首より後ろに枝が伸びた?後ろにあったのって…傘とカメラくらいだけど)
考えていると、流石に頭がくらりとする。
一旦、布団に体を沈めた。髪は保健室の先生が治療している間、蟹が生徒指導室からドライアーを借りてきて乾かしてくれた。服も体操着に着替えている。
(至れり尽くせりってか)
ちょっと気分が良い。ご厚意に甘えて。気兼ねなく、横になった。