星座で801ログ保管庫出張所

桜に攫われる話 052

もう散り始めていた。それにしたって、花の少ない桜だ。花と花の間から、枝や空がよく見える。雨に濡れ、風に吹かれる姿は暗すぎる。
(…来年は今年の分まで花見しないと。気がすまないや)
怪談を駆け上がり教室へと方向転換した時、上の階から降りてくる天秤を見つけた。
「おはようございまーす」
「おはよう」
以前、放課後、ここで蟹と蠍の話を聞いた。その時の冷たい姿が嘘のような、人目を惹く柔らかな笑顔だ。
…あれは幻だったのだろうか。今は、あの時に言いたかった事を言っても大丈夫な気がする。
「ねぇ天秤ちゃん、前、蠍先輩がどうとか言ってましたよね。うちのクラスからもひとり、いなくなってるって知ってましたか?」
「知らなかったな」
声が鋭く尖った。やっぱりあの冷たい態度は幻じゃなかった、と後悔するも、牡羊には牡羊で言いたい事がある。自分で止めるのは無理だった。
「自分が受け持ってる生徒が消えたって言ってんの。蠍先輩を見といて信じないなんて言わないよね?
なぁ何でそんなにアッサリしてんの?」
「教室に入りなさい。渡す物だってあるんだよ。でも今は落ち着きなさい」
そう言うと、教室に入っていく。
(何であんなに冷たいんだよ。助けろとまで言わないから心配くらいすれば良いのに)
苛立ちながら自分も教室に入り、席に着く。最前列なので、天秤の顔がよく見えた。
HRは、決まっていなかった図書委員を決めるところから始まった。