星座で801ログ保管庫出張所

桜に攫われる話 049

最悪の事態になった…。
今すぐ3人全員の元に連れて行くのは無理だ。なので、1番近くにある獅子の家に来たのだけれど。
溜息をつくと、唖然としている乙女の横に走る。
手元にだけ吹いた風に牡牛が驚いた隙に、包丁から逃げ出せた。あれからまだ10秒も経っていない。
背後に吹く風に恐る恐る振り返ると、戦闘態勢の獅子と包丁を握り直した牡牛という物騒な図があった。
早く部屋の隅に連れて行こうと腕を引っ張ったところ、動こうとはせず質問された「水瓶、どうして牡牛がここに居る」
「貴方達3人を帰せって怒られてね。要望に応えたらまぁ…こうなっちゃって」
急に気温が下がった、気がした。
「あいつらを助けろ」
冷たい。目がすんごく冷たい。
「まぁそう言うよね…頑張れば出来るかもしれないけど」
「今すぐ頑張ってくれ」
打てば響くような返答だ。安易に打ってほしくない返答だ。
「獅子も本気でやりはしないって。脅かすだけでしょ。少し待てば収まるよ」
「憶測で待てる状況に見えないし思えないので言ってるんだが」
雪が深々と降る中(水瓶ビジョン)黙っていると、また気温が下がった、気がする。
「わかった、わかったってば」
この幼馴染達、嫌なところが似てやがる。脅されるわ修羅場になるわ、先刻から平和さの欠片もない。
「あぁもう、獅子、死ぬよりマシって思ってね!」
傘を開くと石突の部分を手に取り、持ち手を目的に向け、投げた。
天井に舞い上がった傘は風も花びらも吸い込みながら落ちてゆく。それに気づいた獅子が眉をひそめて片手で払いのけようとするも、それすら無視して目標めがけて落ちてゆく。
残ったのは自分と牡牛と乙女と、畳みの上を転がる傘だった。
「…助かったぁ。正直どうすりゃいいんだと思ってた」
苦笑いすると、牡牛は随分素直に包丁を下ろす。乙女が駆け寄り、
「こっちが言いたい。水瓶に聞いた。馬鹿みたいな理由で来たな」
「だってむこうにいても八方塞がりなんだよ。それがこっちに来た途端に記憶まで戻ったし、今までのは何だったんだって言いたいよ」
傘を拾い上げながら溜息をついた。疑問にお答えする。
「それは貴方が3人と同じ立場になったから。忘れる側じゃなくて、忘れられる側になっちゃってるの」
「あぁ成程ね」
「成程じゃないだろう。脅してまで来ることないし「助かった」じゃないだろ。料理以外で包丁なんか持つからこうなるんだ。誰か殺したらどうするんだよ殺したら殺すぞ」
「刃物持ってる俺が言うのもなんだけど、乙女が1番物騒な事言ってない?まぁ元気そうだ」
「あ、どっちも私の心配してないなコレ」
「心配はしていないが感謝くらいはしている。でも、獅子はどこ行ったんだ?」
牡牛と乙女の間に入ると、
「私の家。少し頭が冷えたでしょう。牡牛に約束したのは話す場だったね」
傘を開く音を響かせた。