獅子の家に行こうと射手から軽いノリで誘われ軽いノリで承諾し、軽いノリで訪問したら、
『気にすんな、粗食だが食えた』
『お前どうしていつも上から目線なんだ』
朝食の話題を振った途端、喧嘩発生。そっと家を抜け出し話し合った結果、魚の家に向かっている。
「双子。俺もしかして、行く先々でトラブルを起こす才能でも身につけたのかも」
「そう言うと推理物の主人公みたいで様になるかもなー」
「あっ、それカッコイイ。でも解決する頭持ってない」
どうでもいい話をしている間に到着。射手は「怒ってませんように怒ってませんように」とブツブツ祈っていたが、蠍は別に怒っていなかった。願いが叶ったのか、普通に生活していたからなのか、もう諦めたのか、理由は不明だ。
「蠍、魚にそんな短時間で惚れたの?」
声を潜め、先刻あった出来事を面白おかしく話す射手…を相手に笑う魚を見る。
「最初に好きかどうかと聞かれたのもあるし決断を急いだのも事実だけど、そうだね。短時間だね」
「理由は?理由。急に声かけられてさー、普通ビビるんじゃね?」
「そんなに怖くなかったよ。好きかどうか、今この場で何て返事するかに頭使ってたし」
「頭使って出した結果は何よ?」
「愛おしい」
砂を吐くかと思った。
補足説明も欲しいところだが、もうこれ以上言う事はないらしい。やはり変わった奴だ。
(第一印象がすごく良いとか、勘とか、そういう感じだと思えばいいのかね?)
しかし、まさか忘れたりしていないだろう。
「でもさー、その出会いが原因で、まぁ消えちゃったわけで」
「そうなんだよねぇ」
「いっちばん重要なとこだろー。俺も射手から聞いたばっかりだけどさー」
知っている情報を手短に話した。
「双子くん、私にどんな反応してほしい?」
…微妙に誤魔化そうとし始めた。
「そう言われても。ただ決めるなら早くしなきゃいけないじゃん」
「私はほとんど決めたけど?」
「ほとんどか」
あと一息の部分は何なんだ。
ここで話はやめた。また斜め下の発言をされると困る。惚れた弱みなのか、魚の存在がとてつもなく大きいのだけはわかった。
「双子くんは、射手くんが好きでここにいるんじゃないの?」
横目でこちらを見ている。
自分はぼんやりと光る花の照明を見た。形こそ桜なのに、普段見ていた桜と比べると不気味に思える。
「喋る奴が面白いと毎日楽しいね。けど存在賭けれるわけあるか」
賭けれないから困ります、と言いかけてやめた。
「どこを好きになったかって?言っていい?言っちゃっていい!?」
この前、散々のろけたはずの魚が目を輝かしている。
好きな子ができたんだ、一度思いっきりのろけてしまおう。獅子の家なら部屋数が(そんなにいらねーだろってくらい)多いし、造りも人間の家に近いので最適だ…と思ったら喧嘩を始められた。
のろけと双子の話し相手がいる場所の両方を叶えるとなると、魚と蠍しかいない。
向こうは向こうで話し込みだした今がチャンスだ。
「言っちゃえ言っちゃえ」
「真剣なとこが好き!甘えたら優しくしてくれるとこも好き!でも甘やかしすぎってわけじゃないのも好き!なんか色っぽいのも好き!無口だけどたまーに照れるの見るのが好き!怒った時とかの本気!って感じを見るのも好き!あと、」
「わかった!好きなんだってよーっくわかった!」
「射手は?双子君のどういうとこが好き?」
「話してて楽しいところ!見た目も一緒にいて楽しそうなところ!」
「一目惚れだね!」
「一目惚れだよ!」
「不可能を可能にだね!」
「不可能を可能にだよ!」
「俺いけると思う!?」
「わかんないかな」
「そりゃそうだな」
本当は桜しかいない場所で語り合う内容だが、双子から大きく離れるのはまだ避けたい。
下手に動かれて探す事になっては大変だ。それに、空間に慣れていない者へ動く手段を与えても使いこなせないと思う。
(水瓶のとこにも、その内連れて行こっと)
双子と蠍を見る。もう話をしていなかった。ただぼんやりしている。
でも初めて逢った時よりマシだ。あの時はこの世の終わりみたいな顔をしていたものの、自分の勘は正しかった。本来は楽しい奴だ。よく喋るし頭の回転も速いから、今よりもっと明るいのかもしれない。
「学校の人が、この辺りにある桜の写真を撮ってるの、知ってる?」
魚が小声で囁いた。
「そうなんだ?気づかなかった」
「僕も偶然見えたんだけどね。この辺りのだけ撮ってるみたい。あの人、誰か探してるのかな」
「写真くらい撮る人沢山いるって」
「でも…。射手、外が見えるようにしときなよ。またその人が来た時、双子君なら誰だかわかるかも」
「それはどうだろ」
「双子君、よく喋るし射手と仲良いし!誰だかわからなくても何か言ってくれるよ!」
「そうかな」
頭を捻る。
「どうかしたの?」
「そういうのは信用されてからだと思って」