料理作りに自信はないが、片付けなら大得意だ。
「よし」
「何がよし、だ」
後ろから声がする。腕を組んだ獅子がいる。
「片付け終わった」
「世の中にはいるよなぁ片付けが好きなんて奇特な奴が」
「世の中にはいるよな、片付けに気を遣わない奴が」
「だってどうせ暮らしてると散らかるものだろ?」
当たり前の事を言うなとばかりに笑われた。自信満々に偉そうに堂々と笑い飛ばされた。
「お前…何か…もう……まだ掃除用具借りるから…」
手遅れだ。説教してたら涙がでそうになるレベルの手遅れだ。
何十部屋あるのか知らないが、その並外れた広さのおかげで集中的に散らかる部屋がないのだろう。
よって代わりがない部屋は別。散らかり気味。この台所とか。
(蠍先輩が言っていたな、騒いだって何も起こらないと。現状全てに言える事だ。けど思ったより完璧な空間じゃなさそうだな。探せば粗がありそう。…騒ぐのは無駄だろうけど)
「用が済んだなら部屋に帰んぞ。俺について来い」
元より来てほしいと頼んでいない。生活に必要最小限の部屋は把握した。
もう一度だけ台所を振り返る。食べない相手にひたすら料理を作っていた。時間と共に喧嘩腰で食べさせようとしていたが、
『心配だろうが馬鹿!!!』
(…怒るか呆れるか意地張るか焦るか心配するか泣きそうか、どれかにしてくれ)
崩れそうなものを支えようと思ったら食事してた。で、何かこうなった。
(…俺が料理作ってもそんなに美味いわけじゃないしな…やっぱ片付けだ)
「ところで、何だって突然片付けする気になってんだ?」
「単に片付けが好きなだけだ。悪いか」
「ついでに料理くらい少しはやれ。俺の方が上手すぎるのは仕方ないとしてだな」
「お前まだ食ってもないだろうが」
「毒見してやらんこともないぞ」
「そんなに酷い物作らねーよ」
黙っていれば格好つけてもまぁ様になるのに、喋ると残念になる男だ。
話を変える事にした。
「そういや、魚は寒がりなのか?部屋の中でもマフラーしてたな」
「蠍に貰ったってやつか。寒がりって程じゃなかったと思うぞ」
「それなのに、か。暑くないのかな」