面倒な事になった。
魚の家から射手の家に戻った双子は頭を抱えていた。蠍と乙女の事でだ。
蠍は魚に会った時。攫われる前から好意を抱いていたようだ。逃げる機会があっても断りそうだった。
乙女は元の場所に戻る気がある。ただし着物は貸りていた。小さな矛盾が起きているように思う。
あぁ面倒だ、2人だけじゃない、そんな2人を好きでいる、桜2名も面倒だ。
「魚と蠍は…俺が前に行った時と同じだったなぁ、うん」
その時は俺ひとりでした…と、射手が泣き真似をしていた。
「そうだ。双子も何か着物いる?」
「いや、俺はいいわ。制服の方が楽そう」
じゃあ着よっかな、と言いかけた時、自分の中の何かから断れと叫ばれる。
着るとしたらどんな色になったのか。色で出来た周りを眺めた。
射手がやたら渋い色を着ているので、自分もそういうのにしてみようか。真反対に派手な色でも面白いが、それだと獅子の趣味と被りそうだ。いや、乙女が着ている白い着物も獅子の物だからそうでもないのか。
魚が着ていた青はどうだろう。蠍の紺色が無難なのだろうか、しかし彼より似合う気がしない。
こう…着物初心者向けの色はないのか。
更に周りを見る。色和紙の中の1枚が揺らいだ。そしてそのまま長方形が円に変わる様子に、
「うっわ、あれ何」
目を見開く頃には、斜め上に藍色の円が出来た。いつの間にか小さく桜まで描かれている。
「お、双子、俺のとこにもお客さんだよ」
何が起こっているのだろうと近づきかけた時、円が飛び出てぬっと手が生える。心臓に悪い光景だ。
円は開いた傘に変わっていた。持ち主は、水色の羽織を着た男だった。
空いた穴から入り、
「や。こんばんは。射手も人を連れ込んだと聞いて」
傘を畳みながら、射手がいる位置まで降りてくる。穴には元の色和紙が復元された。
「そうそう。こいつ双子っての。何々?祝いの品でもくれるの?」
「射手こそ、そこの双子って子と旅行行ってたんでしょ。お土産ないの?」
わざとらしいほどニッコリ笑って手を差し出す相手に、射手もわざとらしいニッコリを返し、その手に自分の手をパーンと叩きつけた。
「おぉう…私の手はこんな良い音出せたのか」
「俺の気持ちだよ、受け取ってね☆」
「痛いほど伝わったよ」
手をさすりながら振り向くと、双子を見て、
「初めまして、水瓶だよ。人じゃなくて桜だよ」
「えー、双子です初めましてー」
どうも助けではなさそうだ、と思いながら挨拶した。
「はぁ、痛いなぁ。友人に冷たくないかい」
「心を込めて体を張ったおふざけしたじゃん、痛みの共有です。人を連れ込んだってのなら、獅子も魚もそうだよ。そっちには行った?」
「獅子のとこなら3日前行ったなぁ。居たのが知ってる人で驚いた。まぁ獅子に帰れって言われたけど」
「魚のとこは?そこも3日前に人が入ったんだよ」
「いやぁ、3日前に行こうとしたんだけど、魚の家から只ならぬ気配と魚ではない友人の固い声がね」
「お前聞こえたの!?助けろ!助けろよ!」
「私にできたのは無事を祈りながらそっと帰る事だけだよ」
だから、魚のとこには行けてない、と淡々としている水瓶。
黙って会話を聞いていた双子は、少し口を挟んでみるかと身を乗り出した。
「水瓶だっけ、俺を見てどうする気なわけ?」
「どうもしないよ?」
実に不思議そうに言われる。
「ただ見たついでに、少し喋ろうかとね。お元気そうで。仲悪くないなら何よりだけど」
「悪くはないと思うけどさ」
利用して帰るつもりです、とは言えない。
「良かったねぇ射手。悪くないってさ」
「ねぇねぇ、悪くないように見えるらしい♪」
ふざけた口調で話しかけてきた。
そっか、俺は全然良くないや。と、双子は心の中で言った。