布団の中で、獅子は本日の出来事を思い返していた。
やるなら5組の中で1番目が良かった。そんな中、近づいてきた人間が例の学校の者だった。好みとまでは言わないが悪くない。そして自分を見て綺麗だと言った。こいつだ、こいつにしようと決めた。
しかし連れ込んでみれば、相手から完全に警戒している。不安がり、混乱し、逃げようとした。それと数秒間、性的暴行をするような奴と認識された。
(なんかもう…色々とボロボロなんだが)
笑うしかないとはこの事か。いや、当事者なのであまり笑えない。特に最後のは笑えない。
こちらも一瞬想像しただけに、この状況は更に笑えない。
(乙女が失礼な勘違いしやがったのが原因だけどな!)
それにしても互いの頭の中でこれ以上は無理なほど近寄らせたくせに、実際は半径50cm以内にも入れないというのは、何か物申したくなるのだが。大体あれだ、ちょっと可愛げないのではないか。
先刻も、着せた浴衣の大きさが合わなかったので「すまないな、俺が立派なせいで」と謝り昔の物を出したら「俺だって平均身長あるよ」と言いながら受け取られた。何か苛立ったらしい。また勘違いされては困るので、もう一組の布団は隣の部屋にしいて良い事にした。
で、布団をもらった乙女はどこにいるのかと言うと、大人しく隣の部屋で考え事をしていた。
(最初から大人しくしてればよかった)
随分と余分に体力を消費した。自分はもう少し冷静かと思っていたのに、ここまでパニックに陥りやすいとは知らなかった。先刻、多少話のやり取りができただけでも奇跡に思える。
スマートフォンの電源はとっくに切れていた。この場所ではおそらく圏外だっただろう。それに、相手は自分を忘れているだろうに連絡しても仕方ない気がする。獅子が水瓶と友好関係にあったと聞き、牡牛の顔だけでも見れないかと思ったが、見てどうするのかという話だ。
『恋した人を家に入れた初日から喧嘩ねぇ』と言っていた水瓶。
『期待してるもんは見れないから帰れ』と返した獅子。
(俺は何かの手違いでここにいるのだろうか)
それならいい迷惑だ。好きだから連れて来たの方がまだ嬉しい。
貸りた浴衣の袖を見る。白地だった。派手な物しか持っていないのかと思ったら、案外普通の物を出して来て意外だった。昔の物だからなのか、TPOに応じた服装くらいはできるのか。
(待遇が悪くないのは、獅子もそれなりに罪悪感があるからか?)
だとしたら…手違いで攫われた者としても困るが、向こうも手を持て余しているのかもしれない。
(その辺を聞いてみたら…どうなるだろう。俺が今考えてる事に根拠があるわけでもないし、やめておこう。
誤解している可能性だって…)
誤解…。
(すみませんでした勘違いでしたなかった事にしてくださいお願いします消してくださいすみませんでした)
謎の謝罪は眠気に負けるまで続いた。