次の部屋に入った途端、その場に膝を着いてしまっていた。スタミナ切れのようだ。
追う内に、乙女は鬼ごっこではなく本気で逃げているとわかった。はっきり言って徒労に終わるだけなのだが、そこは逃げてる本人も気づいたらしい。
それでも意地になっている様子は結構追いかけがいがあった。
ただ、自分の好感度が少しいやかなりいやすごく低そうなのもわかった。
(そりゃあ最初からうまくいくと思ってねぇけど、やっぱイラッとくるな)
涙目で息を切らし座りこむ若者を見る。…今とやかく言う気はなくなってくる。
「おい、乙女」
「な…何だよ」
汗だくの相手にそのままでいろと言うのも何だ。どうするべきだ、とりあえず風呂だろうか。即効で準備なんかできない。着替えを持ってくるのが先なのか?着物着れるのか?手のかかる。
「俺に付いて来い。あと着物は着れるか?」
「?…浴衣くらいなら」
「あー浴衣な、まぁいいか」
乙女は立ち上がったまま姿勢のまま動こうとしない。ただこちらを窺っている。
「どうした」
そんなに信用できないか。そう言う前に、あちらが口を開く。
「…付いて行ってどうするんだ」
「とりあえず服脱げ」
「 」
一瞬で後方に移動された。
警戒されているような。ついでに絶対零度の視線で罵倒されている気がする。
「何だ!?俺は親切心からやってるぞ?肝が据わってるんだか据わってないんだかわかんねぇ奴だな」
「お前親切の意味知ってて言ってるのか!?」
「失礼だな!汗で服濡れたままじゃ嫌だろーって思っただけだろ!」
「え」
「風呂と着替えくらいちゃんと用意してやるって言ってんだ!」
「………」
「また黙るのかよ」
「…誤解した。悪かった」
「はぁ?俺が誤解させるような事言った…か…。…」
あのなぁ…と、呆れたような哀れむような目を向ける獅子と、ひたすら目線を泳がせる乙女。
顔色は御察しだ。
「偶然だなぁ。知ってる人がいるなんてねぇ」
2人揃って突然聞こえた声の方を向く。闇の中をすたすた歩いてくる男が見えた。