星座で801ログ保管庫出張所

桜に攫われる話 026

うっかり友達と知らない人が良い雰囲気になってるところに来てしまいました。どうしますか?
@こっそりとその場を去る
A笑顔でからかってみる
B黙って観察する
頭に3つの選択肢が浮かび、人の家で取る行動としては@が正解と決めたところだったのに。
(やばいやばい蠍って子すごく機嫌悪そう)
そりゃあ機嫌が悪くもなる。相手は出歯亀である。馬に蹴られて○ねというオーラを放たれても文句を言えない。が、
(それにしたって限度があると俺は思います)
蠍の背後でパチパチ音を立てる火が見えた、気がした。
「居たなら早く声かけてくれればいいのに」
ブツブツ呟きながらもお茶を出し、
「驚くじゃない。ねぇ?」
「本当にね」
火が炎に変わりだした蠍に平然と笑いかける魚。どうも助けを求めるのは無理そうだ。
(獅子でも水瓶でもどっちでもいいから助けて)
友に救いの手を伸ばすも、全力で面白がられる図しか想像できなかった。
「いつもこんな感じだっけ。突然、上から射手が降ってくるんだよ」
「待って待って、時間帯とか考えてるから」
「昔は寝てる時でも食事してる時でも普通に降ってきてたじゃない」
事実を言われ、引きつった笑顔になるしかない。いつの間にか炎の色が青くなってくる。
(桜は燃やされると死んじゃうんだよ?)
「そ、それにしても、い、いやぁ2人共愛されてるんだねー!」
いつでも万華鏡を取り出せるようスタンバイしつつ当たり障りの無い事を言うと、
「そう見える!?」
魚が嬉しそうに目を輝かせた。蠍まで毒気を抜かれたように顔を上げ、そのまま呆けている。
「う、うん、どっちも幸せそうだな、と」
嘘ではない。
魚はゆっくり頷く。急須を持ち、射手に近づくとお茶を足しながら小声で言う。
「こんな僕に好きって言ってくれたんだなって。幸せなのはここからなんだよね。
防寒具くれたけど寒くはないかなとか。起きるの遅くなっちゃったからお腹すいてないかなとか。
話す人少なくて寂しくないかなとか。抱きついたけど重くなかったかなとか。考えるのが幸せ」
「まだ寝坊なんてしてないよ」
私は今日来たばかりじゃないか、と異論を唱える声。
「でも明日そうなるかもしれないし。こういうの言い出したら、もっとあるんだけど」
「言わなくても大丈夫だって」
蠍が笑った顔を見たのは、射手にとってこれが初めてだった。
「へー。幸せ、ねぇ?」
何の問題も無い2人がいる。種族と環境さえ違えば何の問題もない。
…魚、お茶足しすぎて溢れてる…。