学校の近くにある駅。その手前で無言になっている学生がいた。
壁にもたれ掛かり、スマートフォンとにらめっこしているのは牡羊だ。
偶然にも電話した時、牡羊と牡牛は学校にいた。
双子からのメールはタイトル『さくら』、本文『桜にさらわれたww』、アドレス詳細には牡牛と牡羊のアドレス、そして真っ白な背景で半分が埋まり、もう半分に硬い笑顔の双子が写った画像。
忙しい時にふざけてるのかこの人は、と一瞬思った牡羊だが、ふざけてる出来事に絶賛見舞われ中の今である。
下校しなければいけない時間だったので合流場所は牡牛が利用している駅の傍になった。
「電話をかけても圏外ねぇ…」
「これでいい加減信じた?」
「ごめん、警察に届け出るような事件と言われる方が納得できる」
圏外と画像を根拠に警察まで行くのもどうかとすら思うけどさ、と付け加えられる。
「何より俺も牡羊も『覚えてる』じゃないか。今日は学校に入れないけど、明日調べれば、はっきりする」
ベンチに腰掛ける牡牛の頭に、今日起きた出来事が浮いては消える。
「そうは言うけどさー…」
口を開き、別に絶対言いたい言葉はないと牡羊は思う。
よく考えれば、対策もなく思い出せもしないなら知らない方が良いかもしれない。攫われた場合はともかく、攫われなければ何事も無い平和な場所に居られる。
(天秤ちゃんが考えてたのは、これか)
「とにかく明日、学校に行けばいいんだよな」
「うん、明日はっきりさせられるんだと思う」