星座で801ログ保管庫出張所

桜に攫われる話 020

蠍は、双子のクラスメートだ。そして、消えてしまった存在だ。かく言う自分も覚えていない。
「お、牡羊くん?」
はぐらかすような喋り方する奴で、お喋りには見えなかったと双子は言っていた。
「ち、ちょっと」
なんだか変わった性格の先輩らしい。桜に攫われる話を気に入っていたそうだ。
「え?え?」
蟹の親戚でもある。昨日、天秤に例の話をした。
「あのー」
「天秤ちゃん」
「な、何かな」
「蠍先輩は、どんな感じの先輩ですか?」
「…独特な考えをするけど、物静かそうな子だったよ。挨拶もちゃんと出来る」
「そんな先輩が、知ったばかりの噂話を教師相手に?」
「…私は偶然聞く形になっただけで、蠍くんが声をかけた相手は蟹さん。さっきも言ったけど、親戚なんだよ。それも近い。蠍くんにとって蟹さんは、いとこのお兄さんだから」
仲の良い親戚、か。
「だから、喋ったのか」
偶然が起きて、蠍は蟹と天秤に話した。
「ん?どうして天秤ちゃんが蠍先輩を覚えて…?」
「だから、蟹さんが紹介してくれたんだよ。本人と話もした。その時、忘れないって約束したから」
忘れないと約束したから覚えているとでも言うのか。
「私からも聞きたい。蠍くんが話を知ったばかりって言えるのは、どうしてかな?」
「……」
いつ、そんな事を…いや言った。どうして物静かな先輩が教師に話したのかと。
笑顔を消して正面から問う天秤は、とても「天秤ちゃん」と呼べる雰囲気ではなかった。
「そ、それより、最初に蟹さんの事を聞いたのはどうしてなんですか?」
牡羊に聞かれ、天秤は一瞬黙る。口をつぐみ、値踏みするように目を細めた。
「…ごめん。お願いだから絶対に、蟹さんに親戚の話をしないでくれないかな」
「んな、そんなの天秤…ちゃんからしてきたんじゃあ…え?蟹さん、蠍先輩を覚えてるの?」
「違うよ」
疑問を突き放すような、冷たい声だった。
「蟹さん、蠍くんを忘れてるんだ。私はもう、蠍くんを覚えてる人がいるとも思ってなかった」
長話してごめんね、もう下校時刻だから帰りなさい、気をつけてね、また明日。
畳み掛けるように言った天秤が去っていく。
(…双子先輩に知らせよう)
そこで、メールが1件届いているのに気づいた。