「こんな僕に好きって言ってくれたんだなって。幸せなのはここからなんだよね。
防寒具くれたけど寒くはないかなとか。起きるの遅くなっちゃったからお腹すいてないかなとか。
話す人少なくて寂しくないかなとか。抱きついたけど重くなかったかなとか。考えるのが幸せ」
「へー。幸せ、ねぇ?」
小声で耳打ちする友達の笑顔を思い出す。聞こえたのか、相手も嬉しい表情を噛み殺していた。
「昔、外国に『誰かを愛することは、その人に幸福になってもらいたいと願うこと』と言った人もいるらしいし…そんなもんかね」
それなら。
「俺もいい人、見つけたいもんだ」
木から木へ飛び移る度、短い廻し合羽が風に広がる。
傍目からは、彼自身が形の無い風のようなものだった。青空の下で動いているのに、誰も姿を見ることができない。やがて、ある木に着地すると同時に赤い万華鏡を真上に放り投げた。
桜の模様が描かれた万華鏡。