星座で801ログ保管庫出張所

桜に攫われる話 007

「もし桜が攫いたい相手がいても、それは12年の年でないといけないわけでしょう。
10年でも100年でもいけないわけだよね。しかも相手はこの学校の人で、この季節のみ。
さっき双子くんは5人の内の1人になる確率について話してたけど、桜にとっての確率もすごいものだよ。
私はこの話、ホラーっていうより恋愛物だと思ったかな」
「れ、恋愛」
「うん。逆に、どうしてこれをホラーだと思ったのかがよくわからない」
神様、俺が悪かった。どうかここから引き返させて下さい。双子より。
「出来た」
蠍はそう言ってスケッチブックを双子に見えるよう傾ける。
課題は既に出来上がっていた。蠍が見せたのは隣のページに描かれたものだった。
鉛筆なので白黒だ。真っ直ぐに伸び、葉の生い茂った木…ではなくて。
桜。
「想像で描いたものだけど。怖くはないと思うよ」
「えーと、上手いんじゃないか。えっと、それ良かったら頂戴?」
真っ白になった頭とは違い、口は場に合った言葉をつらつらと述べる。
これを聞いて、目を見開いた蠍は照れたような表情を浮かべ、桜が描かれたページを双子に渡した。
「今日、暇があったら桜を見に行ってみようかな。…ねぇ、大丈夫?顔色悪いけど…。…。
…えっ私の事?そんな顔しないでよ。好きで勝手にしてる事なんだから。そこ忘れないでね」
顔を強張らせる双子に小指を向ける。小さい子がやる指きり、蠍なりに冗談めかそうとしているらしい。
「お前さ…変わった奴だなぁ」
「そうかなぁ」