星座で801ログ保管庫出張所

桜に攫われる話 005

「あの話聞いてたのか!?マジかよ、そんなに大声で喋ってた?」
ボキッと鉛筆の芯が折れる音と、ギョッとした顔で蠍を見る双子の声は同時に響いた。
少し静かにしてね、とスケッチブックに向かったまま掠れた声で窘められる。
「そんなに大声ではなかったけど、中庭が静かだから聞こえてしまって」
「ど、どこから聞いてた?」
「12年に1度起きるというところから」
じゃあ全部聞いたも同然か。新しい鉛筆に持ち替え、椅子に深く座りなおすと、双子は気になった事を口にした。
「あの話、どう思った?」
そして桜の怪談について、簡単なおさらいをした。
さっきは驚いてしまったが、あのまま学校の怪談について意見を聞いても滑稽なだけだ。
ここは気持ちを切り替えて冷静な態度を取れば相手も冷静に話すだろう。
反応を楽しむ事こそが噂話をする醍醐味だと双子は考える。
隣の席に座っていた蠍は暫く無言だったが、スケッチブックを見たまま、
「桜を見に行きたいと思ったよ」
静かに、力強く断言されてしまった。