(にしても、あの双子先輩がとっておきとまで言うネタか)
クラス替えしたばかりの教室を見渡す。見慣れない顔ばかりではないものの、やはりまだ違和感がある。
(そんな時こそ積極的に話そうってものだよな)
「なぁ牡牛、乙女」
「ん、なぁに?」
「何か用か?」
ひとりはゆっくりマイペースに振り向くと笑い、ひとりは背筋を伸ばした姿勢と無表情を崩さず振り向く。
牡羊がこの2人に声をかけた理由は、出席番号順になる度どうしても目に入るから。
それと、学級委員という役に就いた乙女に1対1で話しかけるのが少々躊躇われたから。
「俺さっき仲いい先輩から聞いたんだけど、桜に攫われる話って聞いた事ある?」
「桜って…木の桜?乙女知ってる?」
首を傾げる牡牛を見て、乙女は無愛想に首を横に振る。
少しくらい口を開けばいいのにと思うが、彼の幼馴染はこれで充分だったらしい。
話題提供者に向き直った牡牛が不思議そうに尋ねてきた。
「どんな話?」
12年に1度起きる学校の怪談。桜による神隠し。忘れられる5人の犠牲者。
「この話自体も12年後まで出回らないんだと。
その先輩、俺がこの話忘れるかもって言ったらさー、忘れるなよ約束だからテストに出すからって。かなり自信あるネタなんだろな」
「どの先輩か特定した。…あの人こそ次の話掴んだら忘れてそうだ…」
牡羊と牡牛の頭で、表情豊かに噂話を披露する双子の姿が浮かぶ。