星座で801ログ保管庫出張所

桜に攫われる話 001

「桜に攫われる話って知ってる?」
校内の中庭。菓子パンの袋を持ったまま、双子がにんまり笑って言った。
あ、楽しんでやがるとわかりつつも、
「何ですか、それ?」
牡羊が聞くと、そうこなくてはとばかりに頷かれる。
「学校の怪談ってやつだよ。この時期になると学校の人間が5人、桜にさらわれるって話」
「いや、俺この高校に通って早2年なのに初耳なんですけど。何それ、最近出来た話?」
「逆!かなり古くからある話だって。でも俺だって春休み中に知ったくらいで…」
「……?」
双子は牡羊よりひとつ年上なのに、この時期に起きる話を知らないのはおかしい。
そもそも5人も行方不明者が出るなんて、新聞に載る騒ぎだ。
牡羊がよほど胡散臭そうな表情をしたのか、あわてて補足説明が入った。
「だって12年に1度起きる事らしいし?
おまけに攫われた5人は皆の記憶から消されて『いなかった事』にされるんだぜ?
後、この話自体が出回る事も12年に1度とかなんとか」
「うっわ、どんどん作られた話っぽくなってきて…」
「あ〜!そんな顔しないでくれる!?俺は聞いた話喋っただけだってば!そこ重要だから!」
「えーと…少なくとも俺がこの話を再び思い出すのは12年後なんですよね?
今これを記憶しても忘れるんですよね」
「せめて今月中くらいは覚えとこうよ!覚えた?忘れるなよ!
約束だから!ここテストに出すから!」
「はい覚えました。あー、肉団子うめぇ」
「うわぁせっかくホラーなノリで話そうとしたのに…
知ってる人が少なそうな、とっておきのネタだったんだけどなぁ」
12年に1度の桜。牡羊にとっては、桜の噂より昼食が大事なのであった。
ついでに、肩を落とす先輩の方が面白いのであった。
「双子くん?」
突然、声が飛んで来る。
「あ、蠍じゃん?」
「あのー。次、美術で…教室移動だけど大丈夫?」
「ううん、全然」
「双子せんぱーい。早いとこパン食べたら良いと思うんです」
暖かくなってきた風と黄緑の芝生を堪能しながら、牡羊は暢気に食事を再開した。